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野茨の血族  作者: 髙津 央
第三章.ドブ

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69.騎士

 朝食の後、外に出ると祭壇の前には、数十人の若者たちが荷物を持って集まっていた。

 昨日、政晶(まさあき)たちと一緒に来た者の他、到着したばかりらしい若者たちが、息を弾ませている。

 それより先に着いたらしい一団は、落ち着いてはいるが、魔獣に襲われたのか、負傷し、衣服も酷い状態だった。


 「鍵の番人さん、あの人ら、治したらんでえぇのん?」

 「私は体しか治せないよ」

 「えっ」

 一呼吸置いて、鍵の番人は政晶の疑問に気付いた。


 「怪我してるのは、えっと……生きて……辿(たど)り着けなかった人たちで、体はもうないよ」

 鍵の番人は言葉を選んで説明してくれたが、まさかと思った疑念を軽く肯定され、政晶は真冬に冷や水を浴びせられたように動けなくなった。

 体に力を入れ、何とか震えを(こら)える。


 〈道半ばで命を失おうとも、ここに辿り着けた者ならば害はない。心の重荷を降ろせば、輪廻の輪に還って行く〉


 政晶は「負傷者」にそっと目を遣った。

 皆一様に、何かを成し遂げたようなさっぱりした顔をしている。


 〈ここに辿り着けなかったことが心残りで、この世に留まっておるからだ。後は成人の儀を受け、心の重荷を降ろせば、納得する〉


 ……心残り……


 政晶は、母の最期の顔を思い出した。

 何か心残りがあっただろうか。

 何も残したくないと言った母に、亡霊になってまで為したいことがあっただろうか。


 政晶は、胸の奥に小さな火で(あぶ)られたような痛みを感じ、その疑問を意識の奥底に沈めた。



 「主峰よ」

 宿の管理人が祭壇に向かって声を掛けた。


 突然、管理者の(かたわ)らに青い火が現れた。

 火は若者たちが見守る中、渦を巻きながら大きくなる。

 青い渦が外に向かって(ほど)けながら消えた跡に、中年の男性が立っていた。


 背が高く、筋骨逞しい偉丈夫だ。

 騎士たちと同じ魔法の鎧に身を固め、政晶(まさあき)の背丈程もある大剣を背負っていた。


 「若者たちよ、よくぞここまで辿り着いた」

 ずしりと腹の底に響く低音。

 大声ではないが、よく通る声が新たな成人を力強く励ます。


 話の内容は、毎年テレビで流れる成人式のニュースで、市長などの偉い人がしている挨拶と、ほぼ同じ趣旨だった。

 若者たちは、生者も死者も同様に、真剣な面持ちで傾聴している。

 ニュースに出るようなバカ騒ぎをする者は、一人も居ない。

 例の若者ですら、大人しく話を聞いている振りをしていた。


 「……それでは、ここで心の(おり)を降ろして行け」

 語り終えた主峰の心は、背中の大剣を片手で抜き、天に掲げた。場の緊張した空気に、政晶も無意識に背筋を伸ばす。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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