表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の血族  作者: 髙津 央
第三章.ドブ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/93

68.視力

 食事を終え部屋に戻ると、鍵の番人が眠い目をこすりながら〈灯〉に命じた。

 「舞い手さんに視力を分けたげて」

 「御意」

 〈灯〉は荷物から筆とインクを取り出した。


 政晶(まさあき)に左手を出すように言い、(てのひら)に複雑な紋様を描く。

 政晶はくすぐったかったが、なるべく揺らさないように(こら)えた。〈灯〉はインクが乾かない内に政晶の手を握り、呪文を唱えた。


 左手から、体の中心に光が流れ込む。中心で渦を巻いた光は、(ほど)けながら体の隅々に広がって行く。

 目を開けても閉じても眩しい。政晶は光に翻弄され、立ち(すく)んだ。

 全身に行き渡ると、光は大人しくなった。〈灯〉が手を放すと、(まばゆ)い輝きはなくなり、目の奥に(ほの)かな熱だけが残った。


 政晶は恐る恐る(まぶた)を上げた。

 いつもの視界だ。

 特に亡霊のようなものが視えるようになった訳ではないらしい。


 「これから七日間、色々視えるようになったよ。三界の眼みたいなことはないけど、多分、ちょっと恐いと思う。手を洗って呪文が消えても、七日間はずっと視えたままだからね」

 鍵の番人はベッドの上で、黒猫に変えた使い魔を抱き寄せながら言った。


 通訳者が居なくなった政晶は、黙って(うなず)いた。

 何も視えていない件について聞きたかったが、諦める。


 〈灯〉が隅に置かれた壺に歩み寄る。

 もう何度も聞いた呪文を唱え、水を生き物のように操り、政晶と自分を洗った。

 二人の手に残る(にじ)んだインクが、跡形もなく流される。


 「暗くなったらお外に出ちゃダメだよ。穢れに引き寄せられたよくないモノが、色々集まってるからね。明日からは一日中だし、今日はもう練習しなくていいよ。おやすみ」

 鍵の番人に有無を言わさぬ調子で言われ、政晶はたどたどしい湖北語で「おやすみ」とだけ返した。

 使い魔のクロは、子供のだっこが不満らしく、頬の毛を膨らませている。


 「まぁ、外で視えるモノは、直接手出しはしてこないから、心配ない。気をしっかり持って、無闇に恐がらなきゃ平気だ」

 政晶の背中を軽く叩き、〈斧〉が元気付けるように言った。

 大きく力強い手と温かな声に、政晶は思わず笑みが零れた。


 ……明日からみっしり練習か……しんどいやろなぁ。


 荷物の中から、赤穂(あこう)にもらったお守りを出し、上着のベルト穴に(くく)りつける。

 その日はいつもより時間を掛けて、赤穂用の記録をつけて眠った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

【関連が強い話】
碩学の無能力者」 友田君のその後。
飛翔する燕」 騎士〈雪〉たちの護衛任務直前の様子。
汚屋敷の兄妹」 巻末の家系図左半分の人たちの話
汚屋敷の跡取り」 巻末の家系図左半分の人たちの話別視点

野茨の環シリーズ 設定資料
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ