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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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64/93

64.救助☆

 「クロエ、この人に乗ってる岩を持ち上げて、道の端に置いて」

 「はい」

 うら若い侍女の姿をした使い魔は、鍵の番人の命令に素直に従い、軽々と岩を移動した。

 事情を知らない若者たちが、驚きに言葉を失う。


 鍵の番人はそれに構わず、男の(かたわ)らにしゃがんで傷の具合を調べに掛かった。

 血が地面を赤黒く染めていた。

 男の左足と右腕が、見慣れない方向に曲がっている。肩の骨が砕けたのか、上着が不自然に凹んでいた。

 即死しなかったのが不思議な程の重傷だ。

 断続的に呻き声は洩れるが、呼び掛けへの応答はない。


 鍵の番人は、男の肩に(てのひら)を押し当て、呪文を唱えた。

 宿で使った童歌のような呪文とは全く異なる、重々しい響きの言葉が連なり、男の体に魔力が注ぎ込まれる。

 詠唱が進むにつれ、あり得ない方向に曲がっていた手足が自然な状態に伸び、凹んでいた肩が本来の膨らみを取り戻す。


 「もう大丈夫だよ」

 鍵の番人が声を掛けると、身内の女性が男を助け起こした。

 服は所々破れ、血と泥で汚れているが、体はすっかり元通りに復元されていた。

 皆、口々に男の無事を喜び、騎士と鍵の番人に礼を述べる。


 唯一人、ひねた青年だけがつまらなそうにそっぽを向いていた。

 「あいつがトロくて、落石避けらんなかったのが悪いのに。何で助けてやんなきゃなんねーんだよ。あいつの血の臭いで魔獣が来たんだっつーの」


 自分は剣を抜かず、魔獣に近付こうともしなかったことは棚に上げ、一人離れた所に立ち、「大体、こいつらが弱過ぎるのが悪いんじゃねーか。この程度の魔獣、オレなら一発で倒せるのに、騎士がでしゃばりやがって。こいつらが足手纏いだから」などと呟いている。


 男女二人連れの男が、クロエを見て、傍らの恋人に同意を求めるように驚きを口にした。

 「あのコ、華奢なのに、凄ぇよな」

 「あんな怪力女の何がいいのよ。私が一番可愛いって言ってくれたの、嘘だったのッ?」

 男は、突然怒り出した恋人に戸惑い、しどろもどろに説明する。


 「えッ? 何怒ってんだよ。あー、ホラ、重力制御の術かもしれないし、それでも難しいし……って言うか、凄ぇって言っただけじゃないか。何怒ってんだよ」

 「変わった服着てるし、しかもそれ似合ってるし、私より背が高いし、あっちのがいいと思ったんでしょ? でも、あんな変な恰好するくらいだもん、あんな女、どうせ目立ちたがりで自意識過剰で性格ブスに決まってんのに、なんで……」

 後は涙声で何を言っているか聞きとれない。


 「いや、だから、何泣いてんだよ? お前が一番可愛いと思ってるし、大事だし、これ終わったら名乗り合うって言ったろ? 何泣いてんだよ?」

 「……別に」

 女はむくれたまま、男の腕にしがみつき、頬を寄せた。


 周りの者たちは、二人をニヤニヤ笑いながら見ている。

 クロエはそんな騒ぎに全く無関心で、政晶(まさあき)の隣で待機していた。


 「名乗り合うって言うのは、結婚するって意味だよ。この辺じゃ、家族以外に本当の名前は教えないからね。名前を教えて家族になるんだよ」

 政晶が質問する前に、鍵の番人が先回りして説明する。

 (うなず)く政晶に、事情を知らない若者たちが首を傾げた。


 挿絵(By みてみん)

 ▲鍵の番人が身に着けた【飛翔する(フクロウ)】学派の徽章(きしょう)。呪医の証。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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