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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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62/93

62.山道☆

 休憩所より上の登山道は、丸太に代わって岩を階段状に埋め込んで整備されていた。

 夏草や湿った土の匂いを胸いっぱい吸い込んで、曲がりくねった山道を登る。


 不意に先頭を歩く〈斧〉が足を止めた。

 「どなしたん?」

 「さぁ? 血の臭いはしますが、何があったんでしょうね?」

 クロエの返事に政晶(まさあき)も風の臭いを嗅いだ。

 化け猫の嗅覚には(かな)わない。政晶には何もわからなかった。


 騎士たちはいつでも抜けるよう、武器に手を掛け、慎重に歩き始めた。

 (かす)かに人の声が聞こえてきた。一行の足取りは更に注意深く、重くなる。

 追い付いてきた一団が、(いぶか)しげに歩調を緩めた。


 人声がはっきりと聞こえ、何かと争う物音も混じっている。騒々しい青年たちが何かと戦い、娘たちが悲鳴を上げていた。

 九十九折(つづらお)りの登山道は見通しが利かず、様子はわからない。


 「なぁ、早よ、助けに行かんでえぇの?」

 「舞い手さんに何かある方が大変だからね。これも大人になる為の試練だよ。もしダメでも、それはそれまでの人ってことで……」

 「えぇッ? そんな薄情な……!」

 鍵の番人の冷淡な答えに政晶は戦慄(せんりつ)した。


 「情に流されて助けに行って、舞い手さんに何かあると、もっとたくさんの人が困ったことになるからね。勿論(もちろん)、生きていれば、見て見ぬフリなんてしないから、心配しないで。治療も救助もちゃんとするよ」

 「それやったら早よ行こうな! あ、そうや、道通ったら遠回りやから、ここまっすぐ登って近道しよ! な!」

 「山の木立の暗がりは、土着の魔物でいっぱいだよ。危ないから道を外れないでね」

 鍵の番人が、にっこり微笑んで釘を刺す。


 分け入ろうとしていた政晶は、立ち止まって斜面を見上げた。

 夏の日差しは、生い茂った木々の葉に遮られ、昼なお暗い。

 厚く降り積もった落ち葉と、下生えの陰性植物。朽ちた倒木。岩。(やぶ)

 この山の暗がりに、政晶の目には見えない無数の何かが(うごめ)いている。


 ……お城出る時は、楽勝やけど気ぃ抜くな、みたいなこと言うとったのに、嘘やったんか?


 〈全く何事もないなら、そもそも護衛なんぞ要らぬわ。確かに、(いまし)を安心させる為の配慮も少しは入っておるが……何をどう解釈したのだ?〉

 政晶は、自分が考える「安全」と、この国の「安全」の基準が、大きく異なっていると気付き、恥ずかしくなった。


 ひとつ大きく息を吐き、前を向いて大股に歩きだす。

 せめて早くその場所に着くように。

 それまで彼らの命があるように。

 政晶は祈る思いで、整備された登山道を進んだ。


 挿絵(By みてみん)

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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