表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の血族  作者: 髙津 央
第一章.帝都
6/93

06.親戚☆

 「政治(まさはる)! 一カ月も何処で何してたんだッ?」

 「社長……よくぞご無事で……」

 立っていた二人が、父に駆け寄ってきた。


 一人は父と同じ顔に眼鏡を掛けている。

 もう一人の初老の男性は、しきりに頷きながら涙ぐんでいた。


 貴族の晩餐会でも催すような豪奢な食堂だった。

 十数人掛けの長い食卓には、純白のテーブルクロスが掛けられ、銀の燭台に明かりが(とも)っている。


 食卓には一人、扉の正面の席に座っていた。父と同じ顔だが、病的に白い肌の男性だ。その背後に金髪の女性が控えている。

 執事の姿はなかった。


 「嫁が病気で亡くなって、色々大変だったんだ」

 父は、同じ顔で怒っている眼鏡の弟に答えた。

 「はッ? ヨメ? いつ、何処の誰と結婚したんだよッ?」

 「大学一回生の時、商都(しょうと)晶絵(あきえ)さんと」


 「で、そこの縮小コピーは何だ?」

 「見てわかれよ。俺の息子だよ。この春から二年生なんだ」

 「へぇーえ……最近の小学二年生は、随分、発育がいいんだな?」

 「見てわかれよ。中学生だよ、中学生」


 「政治(まさはる)こそイヤミをわかれよ! お前が幾つの時の子だよッ?」

 「結婚した次の年。二回生の時の子だよ。経済(つねずみ)、理系なのに引き算もできないのか?」

 「あーッ! もうッ!」

 怒りを爆発させる眼鏡の次男に、初老の男性が、おずおずと声を掛ける。

 「あ、あのー……部長? 社長のご結婚とお子さんの件……ご存知なかったんですか?」


 「えッ? 元町(もとまち)さんは知ってるの? なんで?」

 「あのー……手続き関係で……そのー……色々と……」

 元町と呼ばれた初老の男性は困惑しきった顔で、社長と部長の間に視線を泳がせている。


 「政晶(まさあき)って言うんだ。今日からここで暮らすから。政晶、何、そんなとこ突っ立ってんだ? 入ってこいよ」

 政晶は大食堂前の廊下から、大人たちの遣り取りを呆然と見ていた。


 ……父さん……ツッコミ所、満載(まんさい)過ぎるやろ……


 「どうせ部屋余ってんだし、いいだろ」

 「まぁ、事情が事情みたいだし……反対はしないけど、突然過ぎるだろ」

 「いいじゃないか、別に」

 「良くない。……良くないのはお前の態度のことを言ってるんだ! 大体、何で丸一カ月、電話の一本も寄越さなかったんだッ?」

 再び眼鏡の叔父……経済(つねずみ)が声を荒げる。


 父はどこ吹く風で、座っているもう一人の叔父に声を掛けた。

 「宗教(むねのり)黒江(くろえ)に荷物運ぶの、手伝わせてくれよ。レンタカー早く返しに行きたいんだ」

 「うん、わかった。元町さん、僕、もう行ってもいい?」

 「あ……は、はい。ありがとうございました」


 ……ここまでネタなし。ホンマに犬がおって、ホンマに家にAEDがあって、ホンマに社長で、ホンマに三つ子で、ホンマに女の子みたいな声のおっちゃんがおる。


 宗教(むねのり)と呼ばれた叔父が、隣の席に立て掛けてあった長い杖を手に取る。

 金髪の女性が手を添え、椅子から立ち上がる介助をした。


 「政治(まさはる)! 答えろよ!」

 「あーハイハイ、うるさいなーもー。ケータイ、部屋に忘れてったからだよ」

 「GPSで追跡されないように置いてったんだろうが」

 「疑り深い奴だなー。そんだけ焦ってたってだけだよ」


 宗教(むねのり)は、父と経済(つねずみ)の遣り取りに構わず、女性に付き添われて食堂から出てきた。右手に杖を持ち、左腕には黒猫を抱いている。

 「政晶(まさあき)君……だっけ? お昼ご飯は?」


 叔父二人は、身長も父とほぼ同じだった。

 杖は叔父より頭ひとつ分高く、先端には黒山羊の頭部を模した飾りがついている。拳大だが、やけに生々しく、今にも動き出しそうだ。


 「昼、まだだから、何か食わせてやって」

 不気味な意匠の杖に魅入られている政晶(まさあき)に代わって、父が答えた。


 「今! 話してるのは! 私! だ!」

 「あーハイハイ、わかってるよ」

 更に声を荒げる経済(つねずみ)に父は軽く返す。


 「お前のせいでこの一カ月どれだけ大変だったと思ってんだ!」

 「あーハイハイ、ごめんなさいねー。あ、警察行ったりした?」


 「宗教(むねのり)に探させて、取敢えず生きてることだけわかったから……」

 「あまり大事(おおごと)にしますと、あのー……会社の信用にも関わりますんで……そのー……」

 「あー、やっぱそうだよなー。ごめんごめん」

 「そう思うんなら、せめて会社の番号調べて掛けてくるとか……」


 介助の女性が扉を閉めると、中の声は全く聞こえなくなった。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

【関連が強い話】
碩学の無能力者」 友田君のその後。
飛翔する燕」 騎士〈雪〉たちの護衛任務直前の様子。
汚屋敷の兄妹」 巻末の家系図左半分の人たちの話
汚屋敷の跡取り」 巻末の家系図左半分の人たちの話別視点

野茨の環シリーズ 設定資料
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ