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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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59.主峰

 ヒルトゥラ山を持ち場とする封印の導師・(あざむ)く道と慈悲の谷が、遭難者を気紛(きまぐ)れに助け、麓の住人が登山道や山小屋を整備し、いつしかすっかり成人の儀として登山が定着した。


 郷土の儀礼や家系の仕来(しきた)りも残っている為、必ずしも全員が登る訳ではない。だが、若者の間では、他所の地方を旅する口実にする者も多かった。

 旅の途中、或いは主峰の祭壇で、生涯の伴侶と巡り合う者も少なからず存在する。


 ……えーっと……成人式って言うか、婚活パーティーなん? 祭壇で何すんの?


 〈コンカツ?……いや、集団見合いではない。成人の儀式はある。主峰の心が、訪れた若者の(けが)れを(はら)って祭壇に移し、心機一転、一人前としての自覚を持って暮らすよう、心得を説くのだ〉


 ……あぁ、一応、それっぽいことはするんや。でも何か嘘臭いなぁ……


 〈嘘……いいや、嘘偽りなく、民の為にも、封印を維持する役にも立っておるぞ〉


 若い内はとかく迷いが多く、一度思考が負に傾けば(けが)れを生じやすい。

 人々の心の(うち)に穢れが溜まれば、それが三界の魔物の穢れに取り込まれ、新たな魔を生じやすくなる。


 穢れを(ぬぐ)い去り、気持ちを改め、何らかの権威に己の存在を肯定されることは、生きて行く上で、大きな自信と心の支えになるものだ。


 主峰ヒルトゥラ山には、騎士の魂が固定されている。

 生前は、人々を守る為、数え切れぬ程の魔物と勇敢に戦った。

 最期(さいご)には、その存在の全てを捧げ、封印の最外周として大地を隆起させ、山脈を形成する核となった。


 ムルティフローラのみならず、かつてのプラティフィラ帝国の民にとって、知らぬ者のない英雄だ。そして、山脈はどこからでも見える。


 誰の目にもわかりやすい揺るぎない存在。


 〈心の支えとして、これ程、相応(ふさわ)しいものはあるまい〉


 ……その騎士の人は、山の神様になってんなぁ……何か、シューキョーっぽい。


 〈……(いまし)の思う信仰とは(おむむき)(こと)にするが、形式的にはそのようなものだな。若い内に道を示せば、それが(いまし)めとなり、己を律する(しるべ)ともなる。心を闇に沈めた者が瘴気(しょうき)に触れれば、生きながらにして魂を(むしば)まれ、三界の魔物と化す。それを防ぐ為に必要な措置だ〉


 ……えぇッ? 悪いことして、死んだら地獄行きになるんやのうて、生きたまんま、化けモンなんのッ? 恐ッ!


 政晶はこの国の「普通」に驚愕した。「この世の地獄」とは言うが、ここでは文字通りの意味で、この世で地獄を体現する事象が起こり得るのだ。


 ゆっくりと店内に視線を巡らせ、客一人一人の顔を見る。

 騒々しい青年たちは、昨日倒した魔物の話や、これから登る山の魔物情報を交換し、道中、戦う力を持たない人々を如何に守るか、議論している。


 親戚らしき一団には、道を誤りつつある者がいるらしい。心の(うち)にある(けが)れを如何にして祓うか、その方法を知りたがっていた。

 一人の若者に熱心に人の道を説いているが、当の若者は、あれこれと言い訳や反論を繰り返すばかりで聞き容れない。親戚の者を屁理屈で言い負かしては、「論破してやった」と得意満面になっている。


 恋人らしき二人連れは、夫婦となった後の行く末と、子供が産まれたらどう(しつけ)けるべきか、熱心に語り合っていた。



 一行は、夜明け前に宿を発った。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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