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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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51.制御

 石畳を見詰めたまま、ひたすら足を前に出した。

 畑には昨日の夕飯に出た葉物野菜が植わっている。味は濃いが青臭さがなく美味かった。赤紫色の茎に緑の葉が茂り、風にそよいでいる。


 〈畑の景色は飽きたか?〉


 えっ……う、うん……まぁ、ずーっと一緒やし……


 〈ふむ。退屈ならば、今の内に気になる事を聞くがよい。鍵の番人は物識(ものし)りぞ〉


 えっ……でも……


 戸惑う政晶を建国王は笑い飛ばした。

 〈帰国すればもう聞けぬのだ。(いまし)は力を持たぬ故、二度とこの地を踏むことはない。後で一生涯の悔いを残すより、この機会を活かせばよかろう。見よ、居眠りしておるぞ。落馬を防ぐ為にも話し掛けてやれ〉


 鍵の番人は、白馬の背に揺られながら舟を漕いでいた。今にも手から杖が滑り落ちそうだ。

 政晶は知りたいことが多過ぎて、何から聞けばいいか考えあぐねた。

 鍵の番人の頭がガクリと揺れ、目を覚ました。杖を握り直し、姿勢を正す。


 「あ……あの、鍵の番人さん……ちょっと、質問いいですか?」

 政晶の言葉をクロエがそのまま訳すと、鍵の番人は眠い目をこちらに向けた。

 「私が答えていいことなら、いいよ」


 「叔父さん、馬車で出掛けましたけど、こっちでは何してるんですか? 日之本帝国では、大学の先生なんですけど……」

 思ったよりすらすらと言葉が出た。


 鍵の番人は何だそんなことかと言いたげな顔で答える。

 「公務だよ。結界の保守管理と、三界の魔物の索敵(さくてき)

 「結界の保守……?」

 政晶には何のことかさっぱりわからない。


 「ラキュス湖周辺は、三界の魔物以外の魔獣や魔物も、たくさんいるからね。町や村に入らないように、魔除けの結界を張るんだ。農村は、周りの畑や牧場も含めて守ってるよ」

 鍵の番人は言葉を区切り、政晶を見た。


 政晶が(うなず)くと、杖で畑を示しながら続ける。

 「民自身も結界を張れるけれど、何分(なにぶん)、力が足りないからね。せいぜい、自分の立っている場所を短時間守るので精一杯。力が強い人でも、部屋ひとつ分と言ったところが関の山」


 鍵の番人は、杖を引いて政晶に顔だけ向けて説明を続けた。

 「私や凍てつく炎たちみたいに、王族以外で町や村を丸ごと守れる者は、あんまり居ないんだよ」

 「魔力って鍛えられへんの?」

 政晶が思わず方言で漏らした呟きを、クロエが湖北語の標準語に訳す。


 「ある程度は鍛えられるけど、限度があるね。それに、強すぎる力は、普通に生活するのには不便だし」

 「不便って何で?」

 「出力が強過ぎて、細かい調整が難しいんだよ。例えば、蝋燭に火を点けようとしたら家一軒全焼させちゃったり……」

 「えぇッ?」

 政晶が思わず立ち止まると、騎士たちも歩みを止めた。あ、いえ、お構いなく、と慌てて促し、先に進む。


 鍵の番人は、捻じれた植物を(かたど)った杖を少し上げてみせた。

 「この杖は魔力の出力や方向を調整する制御棒で、この国では王族や導師が持ってるよ。これを持って一生懸命練習すれば、蝋燭だけに火を点けられるようになるんだ」


 「ご主人様は、ユンボの先に(くく)りつけたお玉で、漏斗(ろうと)は使わず、一滴も零さないようにペットボトルに水を入れるみたいな作業だ、とおっしゃっていました」

 クロエの補足に政晶は衝撃を受けた。言葉も出ない。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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