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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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50/93

50.新靴☆

 朝から雲ひとつない快晴で、家々の屋根から雀ではない鳥の声が聞こえる。

 近郊の農村から新鮮な野菜が持ち寄られ、朝市が立っていた。


 日中よりも人の往来が多く、早朝の城門付近は活気に満ち溢れていた。

 政晶(まさあき)たち一行は、籠を背負った人や荷車の流れに逆らって、王都北側の城門を出た。


 「舞い手さんは山登り得意?」

 馬上から鍵の番人が聞く。

 重い物を持って慣れない動きをしたせいで、筋肉痛になった政晶は、脂汗を浮かべながら答えた。

 「あんまり……」

 「そう。じゃ、ゆっくり登ろうね」

 クロエの通訳に(うなず)いて、鍵の番人は気楽に言った。


 蒼天の下、青々と葉が茂る畑の中を白い石畳の道が、どこまでも続いている。

 山脈は遥か彼方で陰のように(うずくま)っていた。


 すれ違う人々がにこやかに挨拶する。

 騎士たちが口々に返礼し、政晶も軽く会釈を返した。

 ムルティフローラ人は人懐こい性質(たち)らしい。


 まだ足に馴染んでいない靴が、再び靴擦(くつず)れを作る。

 政晶は平静を装い、足を前に進めた。

 昨日、何故鍵の番人に靴擦れがわかったのか、不明だ。新しい靴だから当然そうなっているだろうという予想なのか。


 ……それとも、何か……


 〈下らぬことを気にするでない。今も足が痛むなら、鍵の番人に言うがよい〉


 ……えー……でも……


 〈何を遠慮する必要がある。その為に随行しておる呪医(じゅい)なのだぞ〉


 ……えー……でも……靴擦(くつず)れくらいで……


 〈靴擦れくらいとは何だ。我は(いまし)と感覚を共有しておるのだ。汝の痛みは我が痛み。そんな足では到底(とうてい)、今日の旅程をこなせぬわ。歩けなくなるまで黙っておるつもりか?〉


 ……え、でも……何の力もない僕なんかの為に、わざわざ魔法使ってもらうん悪いなって……


 〈それが鍵の番人の職務だ。(いまし)の力の有無なぞ関係ない〉


 ……ちから……あ……ッ! そない言うたら、魔物が見えるようにするとか言うとったん、どないなったん? 今、ホンマに近くに魔物おらんの? それとも僕だけ見えてへんの?


 政晶は馬車での遣り取りを思い出した。

 霊視力がなければ生活に支障を来たす国。

 具体的にどう支障が出るのか説明されなかったことが、あぁかもしれないし、こうかもしれない、と一層の不安を掻き立てる。


 〈両方だ。ここは魔除けの結界が(ほどこ)されておる(ゆえ)、安全だ。そして(いまし)はまだ半視力(はんしりょく)だ〉


 ……おっちゃんは【視える】ようにしてもらえる言うとったんやけど……


 〈今はまだその必要はない。この辺りでは、発生直後の三界の魔物は駆除されておる。他の魔物は結界内には侵入できぬ。安心せよ。それに、視力を付与する術は一時的な物だ。何度も掛け直すのが面倒なのだろう〉

 政晶(まさあき)は溜息を()き、視線を落とした。何も考えたくない気分だ。


挿絵(By みてみん)

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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