05.玄関
大きく息を吐いて顔を上げる。
玄関は、政晶が昨日まで住んでいた分譲マンションの居間と、ほぼ同じ広さだった。
三和土部分が約二畳。左右の壁際に靴箱らしき立派な棚がひとつずつ。
玄関ホールは約六畳。
正面と左右には、植物の彫刻が施された木製の扉があり、固く閉ざされている。
清潔だが、かすかに古い埃の匂いのする板の間で、電話台とAEDの他は何もない。
電話はありふれたプッシュホンだが、AEDは、駅や公共施設に設置されている物と同じ、金属製のスタンドに納められていた。
……あれっ……? ここ、やっぱり博物館か何かなんか?
不意に右の扉が開いた。
「政治さん、おかえりなさい。皆様が食堂でお待ちです」
「ただいま。黒江、荷物運ぶの、手伝ってくれないか?」
「そのようなご命令は、ご主人様より拝命致しておりません。皆様がお待ちです。すぐにいらして下さい」
「あーハイハイ、わかったよ。手を洗ったら行くよ」
父が野良猫を追い払うように手を振る。
執事らしき年配の男性は、扉の奥に引っ込んだ。
「政晶、トイレはこっち」
父は左の扉を開けた。
長い廊下が続いている。古い板張りの床は磨きこまれ、二人の姿をうっすら映した。
左は漆喰の白壁に扉が何枚も並び、右は窓。窓の外は中庭だ。
どうやらこの洋館は、口の字型に建っているらしい。
漸く用を済ませると、今来た廊下を引き返し、父より大柄な執事が引っ込んだ右の扉へ。
父は、長い廊下の突き当りにある扉を二回ノックすると、返事も待たずに中に入った。