49.剣舞
時計がない為、正確な時間はわからないが、窓の外に見える街の影は少し伸びただけで、空はまだ明るかった。
一時間程眠ったのだろうか。
隣のベッドを見ると、鍵の番人はまだ眠っている。
言われた通り、剣舞の練習をしようと階下に降りる政晶に〈斧〉がついてきた。
城には練技場があったが、この宿にはそんな場所はない。
……部屋の中でバタバタしたら鍵の番人起こしてまうし、でも、道で剣振り回したら危ないし……どこでしよう……?
政晶の思案を他所に〈斧〉は当然のような顔で中庭に案内した。
小さな井戸と畑があり、井戸端に一本、果樹が植わっている。夏蜜柑のような大型の柑橘がたわわに実っていた。
政晶は柑橘の木陰で練習に取りかかった。
建国王の指示で、基本の型を繰り返す。
今日は強引に体を動かされる事はなく、政晶は自らの意思で体を動かした。
剣舞に使用する建国王の剣は、刃渡りが一メートル近くあり、四十センチ程の柄がついている。
柄頭には、鍵の番人の拳程もある建国王の涙が嵌っていた。
中学生の政晶が腰に佩けば、辛うじて切先を地面に引きずらないで済む長剣だ。重量もそれなりにある。
こんな物を三番手の十歳児が、一時間も振り回せるとは思えない。
……やっぱり、僕がせなあかんねんなぁ……
改めて責任を感じ、柄を握る手に力がこもった。
足を肩幅程度に開き、左足を半歩前に出す。両手で剣を正眼に構え、大きく円を描く。
剣を顔の正面で横に構え、一呼吸止める。
左手を離し、右手だけで横に薙ぐ。
切先を天に向け、ゆっくりと前に降ろし、正面に突きつける。
そのまま体全体を使った大きな動作で空中に文字を書く。
一文字ずつ、正確に。
政晶は、建国王が示す文字の映像を慎重に剣でなぞった。
重い真剣を手に、慣れない動作を繰り返す。瞬く間に汗が噴き出し、地面に滴り落ちた。
建国王は文字の映像と同時に、呪文の意味を繰り返し教える。
〈天の理、地の恵み、水の情けと火の怒り、我にその大いなる助力与え……〉
長大な呪文の冒頭の一節を数回なぞっただけで息が上がり、右腕が腫れあがった。
建国王が稽古の終了を告げる。
〈今日はここまでにしておこう。もう休むがよい〉




