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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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47.権力☆

 給仕の女性が水と料理を運んできた。

 パンとサラダと焼いた鳥肉が、一枚の皿にまとめて乗っている。まず、鍵の番人と政晶の前に皿が置かれた。


 〈トモエマサアキ、左手を前に出せ〉

 不意に政晶の左手が動いた。そのまま給仕の腰に伸びる。

 あと少しで女性に触れる所で、ずんぐりした騎士が政晶の手首を掴む。


 何も知らない女性は、そのまま厨房に戻った。


 「王様! 僕の手ェで何してくれてんねん?! チカンはアカン言うたやろ!」

 〈いい尻だったのでな、つい〉

 「ついとちゃうわ! ダメ! ゼッタイ!」

 思わず声に出して建国王を(なじ)る。


 クロエがそれも律儀に訳した。

 「ご安心下さい。我々は、建国王陛下があなた様のお体を悪用せぬよう、仰せつかっております」

 茶髪の騎士の言葉に、政晶(まさあき)は釈然としない気持ちになった。

 「僕の『護衛』って、剣の王様が僕の体で悪させんように、国民の女の人を守る方の意味やったんか……」

 「いっいえ、決してそれだけではありません。道中、魔獣などから、あなた様ご自身をお守りする事が、主な任務です」

 文官風の騎士が慌てて言い添える。


 給仕の女性が、苦笑いしながら残りの席に皿を並べ、ごゆっくりどうぞ、と厨房に引っ込んだ。

 どうやら、建国王のことは広く国民に知れ渡っているようだ。

 「あら、私も戴いて宜しいんですか?」

 怪訝(けげん)な顔をしている使い魔に、鍵の番人が頷いてみせた。


 「そのくらいの楽しみがあってもよかろう」

 「でも、ちくわはないんですね……」

 「チクワ……?」

 「日之本帝国で、ご主人様がおやつやご褒美に下さるんです」

 「異国の食べ物か。そんな物ある訳ないだろう。それで我慢しろ」

 鍵の番人に素っ気なく言われ、クロエは肩を落としてフォークを手に取った。


 〈あれは魔法生物(ゆえ)、主人の魔力さえあれば生きて行ける。まぁ、一応、食べ物からも活力を得ることはできるがな。黒山羊の王子が褒美に美味い菓子のひとつやふたつ、与えておっても不思議はない〉


 政晶は、ちくわの味と形、CMで見た製造工程の映像と【竹輪】の文字を思い浮かべた。

 建国王が驚く。

 〈魚を筒型にして食べるのか! 我も口があれば一度、賞味してみるのだがな……〉


 遠い過去に人間を辞めた建国王には、叶わぬ夢だ。

 政晶は建国王の悲しみに触れ、皿に目を落とした。


 「お口に合いませんか?」

 少女騎士が恐る恐る聞く。

 政晶(まさあき)は慌ててそれを否定し、鳥肉を頬張る。

 騎士達が安堵の色を浮かべるのを複雑な思いで見つつ、口の中身を飲み下した。


 「あ……あの……僕、魔力も霊感も何もないタダの子供で、王族ちゃうから、その……そんな気ィ遣わんとって下さい。ホンマ、タダの子供なんで……」

 逸早(いちはや)く食べ終えたクロエが、口元を拭いながら訳した。一同、顔を見合わせ困惑する。


 政晶は気まずい沈黙に耐えられず、更に言い(つの)った。

 「いや、何て言うか……日之本帝国では普通に、庶民で、護衛とか、そんなんないし、こう……偉い人扱い初めてやし……こっちも気ィ遣うから、普通にしとって欲しいんです。えっと……言うとう意味、わかって貰えます?」


 文官風の騎士が、(かす)かに首を縦に振った。

 「おっしゃる意味はわかりますが……あなた様は王家の血族でいらっしゃいますし……」


 これが教科書に載っとった「絶対王政」の権力、言う奴なんか。


 政晶は、鍵の番人に助けを求める目を向けた。

 建国王の剣を小突き回していた彼なら、と言う期待を込めた視線に気付いた導師は、パンを千切りながら言った。


 挿絵(By みてみん)

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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