43.護衛☆
政晶たちの一行も準備が終わり、荷を積んだ馬と騎士たちが整列する。
護衛の騎士は四人。いずれも帯剣していた。
ムルティフローラには、現国王や高祖母のような長命人種がいる為、外見から年齢を推測するのは難しい。
それでも政晶には、自分を護衛する騎士たちが随分、若いように思えた。
父より少し若く見える金髪の男性。
彼が最も年嵩に見えた。家紋は雪の結晶。
ひょろりと背が高く、武官よりも文官のほうがしっくりくる。
魔法使いだから、外見から強さを測ることは出来ないが、何となく頼りない印象だ。
魔道士としての徽章も、双羽隊長や三枝のような魔法戦士の鷲ではなく、翼を広げて飛ぶ燕の形だった。
政晶には、戦士の証とは思えなかった。
政晶よりも濃い茶髪の青年。
高校生くらいに見える。
こちらは政晶がよく知る体育会系の雰囲気で、金髪の騎士より頼もしく見えた。
家紋は蝋燭の炎で、徽章は飛翔する蜂角鷹。
双羽たちとは異なるが、猛禽類なら戦士の証だろう、と政晶はホッとした。
ずんぐりした体形の茶髪の青年。
四人の中で最も腕力が強そうに見える。
家紋は斧で、徽章は歩む鴇。
政晶には何を表す徽章なのかわからないが、細長い体型の鳥の徽章は、文官風の騎士の方が似合うと思った。
彼は政晶と目が合うと、柔和な笑みを浮かべた。
四人目は政晶と同年代に見える金髪の少女。
顔は何となく文官風の騎士に似ていた。
家紋が丸で囲まれた雪の結晶なので、親戚なのかもしれない。
こちらは勝気な表情で、飛翔する鷹の徽章を身に着けている。
眼光も鷹のように鋭かった。
〈男と子供と紛い物しかおらぬとは……〉
建国王が情けない声を出す。
……王様、ロリコンちゃうかったんか。そら、よかったわ。
政晶の認識を読み取った建国王が、憮然として抗議する。
〈汝は我を女と見れば見境なしの変質者だと思うておったのか! 嘆かわしい……我はしっかり出る所が出た大人の女が好みじゃ。あれはあと十年……〉
……あぁ、うん。王様の好みのタイプとか、どないでもえぇから、僕の手ぇで悪させんとって下さいよ。
荷造りを指示していた壮年の男性が、見送りの挨拶を始めた。
「黒山羊の殿下の甥御様、お待たせ致しました。旅の準備が整いました。ご存知やも知れませんが、山脈の主峰ヒルトゥラ山は、我が国の若者が、成人の儀で一度は登る山でございます。道中は街道を通りますし、山中でも、要所々々に休息できる安全な場所が設けてあります」
壮年の男性は、そこで一旦言葉を区切り、若い騎士たちを見遣った。
騎士達は、緊張した面持ちで次の言葉を待っている。
「この者たちは、騎士の叙勲を受けてまだ日の浅い若輩者ですが、道中、特に危険な場所はございませんので、ご安心下さい。また、鍵の番人と黒山羊の殿下の使い魔もおります。必ずや無事にお送り致しますので、ごゆるりとムルティフローラの旅をお楽しみ下さい」
そして、騎士たちに険しい表情を向け、厳しい口調ながらも激励した。
「これは訓練ではない。殆ど危険がないとは言え、物見遊山気分で気を抜く事なく、舞い手殿をお守りするのだ。諸君らにとっては初の要人警護……鍵の番人の指示に従い、必ずや任務を全うするのだぞ。よいな?」
「はい、隊長」
四人が声を揃えて応えた。
隊の指揮を任された鍵の番人は、白馬と戯れ、話を聞いていない。
メイド型の使い魔は泣き止んでいたが、政晶を恨みがましい目で睨んでいた。




