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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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40.手帳☆

 「何度も言わせるな! 大体、体もない癖にどうしてそう、女に見境ないんだ!」

 建国王の剣に手を触れた途端、鍵の番人が罵っているのがわかった。

 武器庫での態度とは打って変わって、建国王に辛辣な言葉を投げつけている。


 「さっきは坊やの手前、礼を尽くしたが、もうやめだ! この助平ジジイ!」


 〈マサアキ、鍵の番人はちびっ子だから、男の浪漫(ろまん)と言う物がわからんのだ。(いまし)ならばわかるであろう? 先程の……〉

 「いっいいえッ! わかりません! 僕もまだ子供やし、なんにもわかりません!」

 ようやく事態を理解した政晶は、手にした剣に向かって叫んだ。


 ここで同意を示そうものなら、建国王のセクハラ行為の実行犯にされてしまう。

 建国王の残念な一面を知る古参の家臣はともかく、事情を知らない者には、政晶(まさあき)自身が自らの意思で痴漢行為を働いたとしか見えないのだ。


 「あなた様が選ばれたのは、正にその為です。本来ならば、王家の血族全員に資格があるのですが、その剣を女性に触らせる訳には参りませんし、大人の男性ですと、それなりに権力をお持ちですので、建国王陛下とご一緒に、よからぬことをなさる残念なお方も……」

 政晶の叫びを双羽隊長が訳し、鍵の番人が内情をぶっちゃけた。


 ……さっき、地下室で世界の運命(かか)っとうみたいなこと言うとったのに、ホンマ大丈夫なんか? この人……


 何はともあれ、一同気を取り直し、訓練が再開された。


 政晶(まさあき)三枝(さえぐさ)の指示に従い、鞘を払って左手に持ち、輝く抜き身を構えた。

 建国王の大雑把な説明で動く政晶に、三枝が補足する。


 剣を振り抜く際の体重の移動、重心の置き方。

 建国王が示す遠くの瘴気(しょうき)の捉え方。


 剣を握っていれば、湖北語がわかるので、三枝のわかりやすい説明は、大いに助かった。


 陸上部だった政晶は、体力には少し自信があったが、慣れない動きのせいか、すぐに息が上がってしまった。

 長袖の衣服が汗で体に貼り付く。額から(したた)る汗が床を濡らした。


 「少し休みましょう」

 三枝(さえぐさ)が、剣を(さや)に納める手振りを交えながら言った。


 政晶は頷いて剣を仕舞うと、その場に座り込んだ。

 建国王が〈男の指導なぞ、つまらん。さっさと終わらせるのだ〉などと言いながら、政晶の体を強引に動かしたせいもあった。


 ……暑いねんけど、半袖に着替えさしてもらわれへんのやろか……?


 〈聞いておらぬのか? それは(いまし)を守る鎧であるぞ〉

 建国王が説明する。

 隙間なく施された刺繍は呪文で、魔除けや緩衝、防寒、耐熱等の効果を持っている。


 ……耐熱……? 暑いねんけど……? 


 政晶が(いぶか)しげに問うと、建国王は当然だ、と反論した。

 〈効力を発揮するには、魔力が必要だ。(いまし)のように力を持たぬ者も守られるよう、それにはサファイアが縫いこんであろう?〉


 水晶やサファイアには、魔力を蓄積する性質がある。

 この衣服のように特殊な加工を施すことで、その魔力を引き出し、特定の目的の為に使えるようになるのだ。政晶の服には、魔力の残量がないらしい。


 ……え……どなしたらえぇの……? 


 〈(いまし)の叔父にでも力を借りるのだな〉


 その日の夕飯は、疲労と時差ボケで半分寝ながら口に入れた。

 政晶(まさあき)は、宗教の私室で女官に体を洗われるなり、寝台に倒れ込んだ。


 終業式の帰り、赤穂(あこう)委員長に、日記を付けてムルティフローラの様子を伝えると約束したのだが、腕を上げることもままならない。


 ……すまん、委員長……明日まとめて書くから……


 政晶は泥のように深い眠りに落ちて行った。

 挿絵(By みてみん)

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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