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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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37.封印

 次の瞬間、ムルティフローラの国土を上空から見下ろす映像が、脳裡(のうり)に展開した。

 政晶(まさあき)の目は、手にした剣を見ているが、それと同時に、急峻な山々に囲まれた王国の様子が、重なって見える。


 政晶は目を閉じた。

 見た事のない風景が、夢の中のように次々と映し出される。



 盆地の中央に位置する王都。その中心に(そび)える城。

 城全体が立体構造の複雑な魔法陣で、城壁に囲まれた王都もまた、魔法陣。

 国土全体が巨大な魔法陣を形成し、幾重もの魔法陣の最外周が、山脈だった。


 映像は再び城に戻り、先程の中庭を示した。

 右の塔最上階に三人の魔道士が見える。

 三人の巫人。

 高祖母(こうそぼ)が、塔の扉を九十五枚以上開き得る最も強力な王族だと言っていた。


 左の塔に鍵の番人。石碑には湖の民の導師。

 建国王の声が、この二人は師弟で、建国と「三界の魔物」の封印に携わった者たちだ、と告げる。


 中庭の魔法陣を抜け、地下へ。

 地下室に凍てつく炎。彼もまた、封印を施した者の一人で、現在も三界の魔物を監視している。


 更に地下深くに視線が潜る。

 何枚もの扉と部屋、それぞれに複雑な魔法陣が描かれている。その全てが、三界の魔物を閉じ込める封印の一部だった。


 城の地下、最下層に、棺がひとつ安置されている。

 この部屋は全ての壁面と床、天井に至るまで、隙間なく文字とも紋様ともつかない物で埋め尽くされていた。


 〈ここが封印の間だ〉


 建国王の声が、心の奥深くに突き刺さる。

 政晶の心にひたひたと恐怖が満ちる。

 建国王が力強い声でその恐怖を拭う。


 〈案ずるな。封印は完全だ。魔物は何者も直接脅かすこと(あた)わぬ〉


 三界の魔物は、存在の核を物質界と幽界、冥界の三つの世界に置く魔物の総称だ。

 通常の武器では、物質界の肉体を破壊するに留まり、(めっ)することができない。

 魔法や魔法の武器ならば、幽界までは届くが、冥界には届かない。


 三界の魔物は遥か(いにしえ)に、ラキュス湖から遠く離れたもうひとつの大陸……アルトン・ガザ大陸で生まれた。

 彼の地では、今でこそ科学文明国が多く栄えているが、当時は魔法文明の国々が、隆盛を誇っていた。


 大国のひとつで生み出された魔法生物の一種。

 人間同士の戦争の為に開発された破壊の為の存在。

 それが、三界の魔物だった。


 魔道士に対抗する為に作られた生物兵器で、存在の位相をずらして姿を隠し、攻撃を(かわ)す。

 瘴気(しょうき)を撒き散らし、人々の暗い情念と瘴気(しょうき)で増殖する。

 核を破壊しない限り、周辺の魔力を(かて)に膨張しつつ再生する。

 魔力を持つ者を喰らい、成長し続けた。


 三つの世界に同時に届く武器。

 「一人の全存在」を変換した「退魔(たいま)の魂」と呼ばれる武器だけが、これに対抗できる。

 その者の決意に基づき儀式が行われ、変換の術式が組み込まれた呪具が授与される。

 呪具を所持し、使用することで、その者の存在が少しずつ呪具に取り込まれて行く。


 武器「退魔の魂」は、その者の命が尽きる時に完成する。

 その者が長く生きる程、その者が生前に呪具で倒した魔物が多い程、退魔の魂は強大な力を持つようになる。


 〈マサアキを連れてきた騎士も、退魔の魂と成るべく、全てを捧げているのだ〉


 三界の魔物は、戦場で爆発的にその数を増した。

 一定以上の大きさに育ったモノと、新たに生まれたモノは、軍の制御を離れ、人の手を離れ、作成時に与えられた本能に従い、破壊と増殖を繰り返した。


 数を増した三界の魔物は、世界中に広がり、ラキュス湖周辺にも到達した。

 その頃には、既に人間同士は停戦し、三界の魔物に対抗すべく各国が協力し合っていた。

 先に三界の魔物に蹂躙されたアルトン・ガザ大陸からは魔力が枯渇し、皮肉にも三界の魔物の弱体化をもたらしていた。


 退魔の魂が開発され、多くの人間が自ら武器となり、三界の魔物への反撃が始まった。

 千年以上の長きに(わた)る戦いの末、最初に作りだされた最も大きく強力な三界の魔物を封じる事に成功した。


 〈その封印の地が、ここ、ムルティフローラだ〉

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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