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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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36.魔剣☆

 食休みの後、鍵の番人と凍てつく炎に伴われ、城の地下に降りた。通訳として双羽(ふたば)隊長が同行する。


 民族衣装の刺繍に似た装飾が施された石扉の前で、凍てつく炎が何か説明を始めた。

 双羽隊長が簡潔に訳す。


 「ここは王家の武器庫です。王族か王家の血族にのみ扱える品と、王族で作った武器、防具、装飾品などが納められております」


 ……王族「で」ってなんや? 王族「が」作ったん(ちゃ)うんか?


 日之本語に堪能な双羽隊長が、珍しく言い間違えたが、語学力に自信がない政晶(まさあき)は、聞き流すことにした。


 全て魔法の力を持つ物品で、それぞれが特別な効果を持っている。

 今回のような儀式や、通常兵器が効かない魔物と戦う場合などに用いられる。

 「特別な武器」と言う言葉の響きに政晶の胸が高鳴る。


 「扉を開けて下さい」

 双羽隊長に言われ、政晶は把手(とって)を引いた。ここも開閉に王家の血筋が必要なのか、鍵らしき物は見当たらない。

 扉は石造りにも関わらず、音もなく軽々と開いた。

 勢い余ってよろめいた政晶を、凍てつく炎が抱きとめる。


 壁に剣や盾、槍、杖、戦斧等の武器が掛けられ、奥の棚には、中身が詰まった皮袋や甲冑や封が貼られた箱が、並べられている。武器の中には淡く発光している物もあった。


 「こちらです」

 最奥の棚に案内された。

 鍵の番人と凍てつく炎が、棚の扉に向かって何か言う。

 呪文ではなく、誰かに話し掛ける口調だ。

 凍てつく炎が棚をノックし、王家の紋章が彫刻された両開きの扉を開ける。


 中には一振りの剣が収められていた。

 鞘は簡素だが、柄頭(つかがしら)には、拳の半分程の大きさの宝石がひとつ(はま)っている。新芽のように鮮やかな宝石の中には、小さな光が瞬いていた。


 三人が(ひざまず)く。

 剣から(おか)しがたい威厳が感じられ、政晶も三人に(なら)って跪いた。


 双羽隊長が小声で説明する。

 「このお方は、ムルティフローラの建国王陛下です」

 「えっ?」

 政晶は思わず顔を上げた。


 確かに人の気配、威圧感のようなものは感じられるが、棚の奥に安置されているのは、剣だ。

 「(つか)の宝玉は、建国王の【涙】です」



 魔力を持つ者を火葬すると、骨と灰の他に魔力の結晶が残る。

 これを【魔道士の涙】と呼ぶ。


 結晶の大きさはその者の享年(きょうねん)により、死亡時の年齢が高い程大きくなる。

 内部に蓄積された魔力の量や強さ、性質はその者の生前の能力に応じる。


 特殊な加工を施せば、【涙】に貯まった魔力を使うことが可能になる為、過去には、科学文明国が資源として、魔道士狩りを行った時代もあった。

 現在は、【涙】の取引自体が、堅く禁じられている。


 魔法文明国には【涙】を遺族が身に着ける習慣があった。

 【涙】の中には死者の魂を封入した物もあり、中の魔力を消費し尽くし、砕け散るまで、共に暮らせる。【涙】には魔力を充填できる為、余程のことがない限り砕けることはなかった。



 「建国王陛下は【涙】に魂を封じ、二千年以上の永きに(わた)り、この国を守り続けて下さっているのです。さあ、お手に取ってご挨拶を」

 政晶(まさあき)は震える手で剣に触れた。

 直前まで誰かが握っていたようなぬくもりに、思わず手を引っ込める。


 凍てつく炎に促され、再び手に取った。

 あたたかい。人肌のぬくもり。

 誰かと手を繋いでいると錯覚する不思議な感覚。


 「あっあのっ、こんにちは」

 何と言えばいいかわからず、間抜けな言葉が飛び出す。

 建国王の涙が淡く輝き、政晶の心に直接、力強い声が届いた。


 〈我が裔冑(えいちゅう)よ。よくぞ参った。我はカレソー・フォーツーニ・ロサ・ムルティフローラ・アダ・オーランティアカ・ロカスタ。(いまし)の名を心の(うち)に唱えよ〉


 胸の奥にじんわりと灯が点り、その光と熱が、ゆっくりと全身に広がって行く感覚。

 【巴政晶(ともえまさあき)】の文字イメージと「政晶」と呼ぶ母の声が心に甦った。


 建国王が〈トモエマサアキ〉と復唱する。


 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
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