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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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35/93

35.身内

 叔父の腕から黒猫が飛び降り、侍女になった。

 メイドのクロエだ。

 上座に最も近い空席の椅子を引き、主人の着座を介助する。


 政晶は思わず動きを止めた。

 「ん? どうしたの? 早く座りなさい」

 叔父の手前の席から高祖母(こうそぼ)が言った。


 ……どういうこっちゃ……? 黒江さんは化け猫で、使い魔で……クロエさん……?

 

 政晶は混乱しながらも、王に頭を下げて着席した。


 昼食は驚く程、質素だった。

 羊肉入りの野菜スープとパン。政晶の普段の食事の方が余程豪華だ。

 横目で左を見ると、黒山羊の王子殿下は、肉なしの野菜スープだけだった。


 食欲はなかったが、この状況で食事に手を付けなければ、精神がもたない。国王たちに余計な心配を掛けぬよう、匙を手に取った。

 政晶はスープを口に運び、今度は別な意味で驚いた。


 ……なんやこれ、めっちゃ美味(うま)い……!


 野菜そのものの味が濃く、複数のキノコの出汁が羊の脂と絡まり、複雑な旨味を作りだしていた。何種類もの香草が、羊肉の臭みを消して、爽やかな香りを漂わせている。暑さで参っていた体に、程良い塩気が染み透った。


 これまで口にした中で、これ程、美味い物は初めてだった。

 羊の脂で重いスープかと思ったが、香草は薬草でもあるのか、ストレスで弱った胃に優しかった。


 親戚たちは、政晶にはわからない言葉で(なご)やかに談笑しながら、食事を摂っている。

 政晶(まさき)を物珍しげにじろじろ見るような不躾(ぶしつけ)なことはしない。

 言葉が通じない上、席が遠いせいか、話し掛けられることもなかった。


 「王妃様がね、たくさんあるから、おかわりは遠慮なく言うのよ。育ち盛りなんだから、いっぱい食べていいのよって」

 王妃が政晶に掛けた言葉を、叔父が訳す。


 政晶が礼を述べると、高祖母(こうそぼ)がそれを湖北語に訳した。

 「これ、めっちゃおいしい。作った人にもありがとう言いたいゎ」


 政晶の素直な感想が訳されると、王が目尻を下げて政晶の頭を撫でた。

 大きくあたたかな手に、政晶の中で張り詰めていた何かが氷解する。

 父からは感じた事のない、心の動き。


 ……これも何かの魔法なんやろか。


 政晶の食べっぷりを幸せそうに見守る国王夫妻を、不思議に温かい気持ちで見つめ返す。

 大使から報告が行っているのか、家族のことなど、政晶がそっとしておいて欲しい事柄には、全く触れられることなく、食事会が終わった。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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