34.洗浄☆
政晶は、叔父の私室に通された。
日当たりのいい部屋だが、何故か涼しい。
寝台脇の小さな棚に荷物を置くと、二人の女官が、政晶を隅にあるタイル張りの一角に立たせた。
女官の一人が小声で呪文を唱えると、目の前の壺から、水の塊が立ち上がった。
もう一人の女官が、手にした籠からハーブの束を取り出し、水の柱に挿す。
水塊がハーブを取り込み、淡い色に染まった。
「日之本帝国みたいなお風呂はなくって、魔法で体と服を一緒くたに洗うんだよ。心配しなくても、溺れないようにしてくれるから、じっとしててね」
叔父に説明され、女官を見る。二人はにっこり微笑んで、さらに呪文を唱えた。
水の塊が生物のように動き、政晶を包み込む。
思わず目を閉じた。
水に包まれているのに、濡れた感じがしない。
柔らかく温かい何かが体の表面を這う感触に、政晶は恐る恐る目を開けた。
ぬるま湯が、体表を滑らかに流れていた。
意思を持っているかのような水の動きに目を奪われ、呆然と見守る。
ぬるま湯は、最後に髪を洗うと、政晶からするりと離れ、足下に置かれた小さな籠に何かを吐き出した。
水流から色が抜け落ち、元の清水に戻ると、出てきた時同様、するりと壺に納まった。
「じゃ、行こっか。今日のごはんは身内だけだから、気を遣わなくていいよ」
帽子とマントを片付けた叔父が、戸口から微笑みかけた。
政晶は、暑さとストレスで何も口にしたくない気分だった。そうも言っていられない雰囲気を感じ取り、諦めて叔父について行く。
城の食堂は、屋敷の大食堂よりも質素だが、広かった。
既によく似た雰囲気の人々が集まり、長い食卓のそれぞれの席に着いて談笑している。
政晶たちが食堂に入ると、上座の国王が立ち上がって何か言った。親戚たちが一斉にこちらを向く。
叔父が政晶の肩を抱いて何か言い、お辞儀した。政晶もおずおずと頭を下げる。
ざっと見た感じで五十人以上。
これまで全く親戚付き合いと言うものをしたことがなかった政晶にとって、途方もない人数だった。
初めて会う親戚たちの注目を浴び、政晶はすぐにでも家に帰りたくなった。
王が満面の笑みで手招きする。
「君は王様のお隣においでって」
叔父が小声で訳して上座に向かう。
政晶は置いて行かれないように後を追った。上座中央に国王、その右隣に政晶が案内された。




