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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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33/93

33.検査☆

 馬車の中での話を総合しても、力があった方がいいのか、ない方がいいのか、政晶には判断し兼ねた。


 ……どうせ、父さんに似て何の力もないんやろし、今更どないしようもないしなぁ……


 白馬の杖を持った国王に連れられ、天幕に入りながら、政晶は腹を(くく)った。

 天幕の中では、壮年の男性と、文官らしき若い男性が待っていた。


 国王、政晶、鍵の番人、大使の四人が入ると、出入口の幕が下ろされた。

 年配の男性が近付いてきた。鍵の番人とはまた別の、政晶の知らない花を(かたど)った杖をついている。

 湖北語で何か言われたが、全くわからない。


 「お体のどこかに王家の紋章がある筈です。(あざ)の場所を指差して下さい、と凍てつく炎がおっしゃっています」

 大使の通訳に頷き、政晶は左腋の下を指差した。


 凍てつく炎と呼ばれた男性が、服を脱ぐような身振りをする。

 政晶は(うなず)いて了解すると、貫頭衣(チュニック)と上着を脱ぎ、左手を挙げた。


 挿絵(By みてみん)


 国王、鍵の番人、凍てつく炎が注目する。

 政晶は、隠し続けた痣に視線を注がれ、額にイヤな汗が滲んだ。

 鍵の番人が発言し、国王と凍てつく炎が同意を示した。文官が書類に何か書き込む。


 「お召し物を」

 大使に手渡された服を身に着けると、すぐに天幕の外に出された。


 王が杖を高く掲げて宣言すると、家臣たちの間に安堵が広がった。

 「この鏡にお手を触れてから、塔の扉を開けて下さい」

 「塔の内部を映すモニタなんだよ」

 大使が、鍵の番人の言葉を訳し、黒山羊の殿下が補足した。


 ……いや、どうせ入口で仕舞(しま)いやから、いらんねんけどな。


 そう思いながらも、言われた通り、鏡面に掌を当てた。

 水面に小石を投げ込んだような波紋が広がり、思わず手を引っ込める。鏡は鎮まり、政晶の青ざめた顔を映し出した。

 鍵の番人に手を引かれ、右の塔の前に立たされる。


 隣に立った凍てつく炎が、身振りで扉を手前に引いて開けるよう、促した。

 政晶は、ひとつ大きく息を吐いて覚悟を決め、王家の紋章が描かれた両開きの扉に手を掛けた。


 背後から人々の緊張が伝わり、把手(とって)を握る手が震える。

 扉は何の抵抗もなく開き、政晶(まさあき)は勢い余って数歩後退した。


 塔の内部は、灰色の石壁に囲まれた狭い部屋だった。

 正面の壁にまた扉がある。

 「中の扉は全部押して開けるの。七十枚で王位継承権、九十五枚で三人の巫人の資格が与えられるのよ」


 ……いや、別にそんなんいらんし。日之本で普通の人生送りたいゎ。


 三つ首山羊の王女の声を背に受け、政晶は無理だとわかっている扉に手を掛け、押した。


 予想通り、びくともしない。

 それでも一応、体重を掛け、全力で押して見せてから振り向いた。


 家臣たちの反応は様々だった。

 無表情が最も多く、明らかに落胆している者も居れば、侮蔑の目を向ける者も居る。


 身内は少し寂しそうな顔で、政晶(まさあき)を迎えた。

 凍てつく炎が、政晶の髪をくしゃくしゃ撫でた。

 「念の為に確認しただけだから、気にしなくていいよ」

 叔父が、使い魔の背を撫でながら優しい声で言った。


 黒猫は場の空気などお構いなしに、喉を鳴らして主人に甘えていたが、横目でちらりと政晶を見ると、小馬鹿にしてフンと鼻を鳴らした。

 「クロッ、めッ!」

 使い魔は、主人に叱られると耳を伏せ、恨めしげに政晶を睨んだ。まるで反省していない。


 自分の努力でどうにもできないことで見下され、政晶の胃が痛んだ。「魔法使い」の国では、この使い魔の反応こそが、一般的なのだろう。


 国王が(おごそ)かに宣言し、家臣たちはぞろぞろと解散した。

 「さ、お昼ご飯にしましょ」

 三つ首山羊の王女が明るい声で言った。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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