33.検査☆
馬車の中での話を総合しても、力があった方がいいのか、ない方がいいのか、政晶には判断し兼ねた。
……どうせ、父さんに似て何の力もないんやろし、今更どないしようもないしなぁ……
白馬の杖を持った国王に連れられ、天幕に入りながら、政晶は腹を括った。
天幕の中では、壮年の男性と、文官らしき若い男性が待っていた。
国王、政晶、鍵の番人、大使の四人が入ると、出入口の幕が下ろされた。
年配の男性が近付いてきた。鍵の番人とはまた別の、政晶の知らない花を象った杖をついている。
湖北語で何か言われたが、全くわからない。
「お体のどこかに王家の紋章がある筈です。痣の場所を指差して下さい、と凍てつく炎がおっしゃっています」
大使の通訳に頷き、政晶は左腋の下を指差した。
凍てつく炎と呼ばれた男性が、服を脱ぐような身振りをする。
政晶は頷いて了解すると、貫頭衣と上着を脱ぎ、左手を挙げた。
国王、鍵の番人、凍てつく炎が注目する。
政晶は、隠し続けた痣に視線を注がれ、額にイヤな汗が滲んだ。
鍵の番人が発言し、国王と凍てつく炎が同意を示した。文官が書類に何か書き込む。
「お召し物を」
大使に手渡された服を身に着けると、すぐに天幕の外に出された。
王が杖を高く掲げて宣言すると、家臣たちの間に安堵が広がった。
「この鏡にお手を触れてから、塔の扉を開けて下さい」
「塔の内部を映すモニタなんだよ」
大使が、鍵の番人の言葉を訳し、黒山羊の殿下が補足した。
……いや、どうせ入口で仕舞いやから、いらんねんけどな。
そう思いながらも、言われた通り、鏡面に掌を当てた。
水面に小石を投げ込んだような波紋が広がり、思わず手を引っ込める。鏡は鎮まり、政晶の青ざめた顔を映し出した。
鍵の番人に手を引かれ、右の塔の前に立たされる。
隣に立った凍てつく炎が、身振りで扉を手前に引いて開けるよう、促した。
政晶は、ひとつ大きく息を吐いて覚悟を決め、王家の紋章が描かれた両開きの扉に手を掛けた。
背後から人々の緊張が伝わり、把手を握る手が震える。
扉は何の抵抗もなく開き、政晶は勢い余って数歩後退した。
塔の内部は、灰色の石壁に囲まれた狭い部屋だった。
正面の壁にまた扉がある。
「中の扉は全部押して開けるの。七十枚で王位継承権、九十五枚で三人の巫人の資格が与えられるのよ」
……いや、別にそんなんいらんし。日之本で普通の人生送りたいゎ。
三つ首山羊の王女の声を背に受け、政晶は無理だとわかっている扉に手を掛け、押した。
予想通り、びくともしない。
それでも一応、体重を掛け、全力で押して見せてから振り向いた。
家臣たちの反応は様々だった。
無表情が最も多く、明らかに落胆している者も居れば、侮蔑の目を向ける者も居る。
身内は少し寂しそうな顔で、政晶を迎えた。
凍てつく炎が、政晶の髪をくしゃくしゃ撫でた。
「念の為に確認しただけだから、気にしなくていいよ」
叔父が、使い魔の背を撫でながら優しい声で言った。
黒猫は場の空気などお構いなしに、喉を鳴らして主人に甘えていたが、横目でちらりと政晶を見ると、小馬鹿にしてフンと鼻を鳴らした。
「クロッ、めッ!」
使い魔は、主人に叱られると耳を伏せ、恨めしげに政晶を睨んだ。まるで反省していない。
自分の努力でどうにもできないことで見下され、政晶の胃が痛んだ。「魔法使い」の国では、この使い魔の反応こそが、一般的なのだろう。
国王が厳かに宣言し、家臣たちはぞろぞろと解散した。
「さ、お昼ご飯にしましょ」
三つ首山羊の王女が明るい声で言った。




