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野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

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32.王城

 曲がりくねった大通りを抜け、馬車は街の中心に位置する城に到着した。


 城門の前では、衛兵が長槍を掲げて敬礼している。

 そのまま通過し、第二、第三の城壁と城門を抜け、ようやく前庭に至った。


 城は煌びやかな宮殿ではなく、堅固な城塞だった。

 正面の大扉の前に、十数人の武官が整列している。


 数人の女官を伴い、いかにも身分が高そうな女性と、子供が馬車に歩み寄ってきた。

 馬車を警護してきた騎士たちが、下馬して恭しく二人を迎える。


 女性は白山羊の頭が三つ付いた杖、子供は()じれた植物を意匠化した杖を持っていた。

 「おかえりなさい。おなかすいたでしょうけど、先に検査があるから、少しの間辛抱して頂戴ね」

 女性が、流暢な日之本語で言って微笑む。

 政晶(まさあき)高祖母(こうそぼ)、三つ首山羊の王女殿下だ。


 政晶はあれから一度、食堂に入って肖像画を確認している。

 今、目の前に居る高祖母は、肖像画と寸分違わぬ若さを保っていた。

 サインには百年近く前の日付が入っていた筈だが、高祖母は、父よりも年下に見える。

 長命人種(ちょうめいじんしゅ)にとって、百年の歳月は瞬く間のことなのか。


 三人と一匹が馬車を降りると、三つ首山羊の王女殿下は、改めて挨拶した。

 「初めまして。坊や、高祖母(ひいひいおばあ)ちゃんよ。お父さんの小さい頃そっくりね。かわいいわ」

 「初めまして。ま……」

 政晶(まさあき)は名乗りかけて、続きを呑みこんだ。


 杖を持った子供が、政晶には全くわからない言語で、何か言った。

 黒山羊の殿下が二言三言答え、双羽隊長がそれに何事か付け加える。


 大使が小声で訳してくれた。

 「国王陛下と大臣たちが中庭でお待ちです。到着早々でお疲れでしょうが、お越し下さい、と鍵の番人がおっしゃったことに対し、黒山羊の殿下が、大丈夫だよ。本人には馬車で伝えてあるから、とお答えになられました。【鍵の番人】はこのお方の称号です。隊長は、あなた様の健康状態が良好である旨、報告しました」

 政晶は黙って(うなず)いた。

 (てのひら)に、暑さとは違う汗が滲む。


 大扉が開けられ、政晶(まさあき)たちは城内に通された。

 分厚い石壁の内部はひんやりとして、たちまち汗が引く。


 足音と、三本の杖が床を打つ音が高い天井に反響した。

 すれ違う文官や武官が廊下の端に寄り、恭しく(こうべ)を垂れる。

 政晶は無意識に叔父のマントの端を握っていた。


 中庭は砦の中央に設けられていた。

 石畳が敷き詰められた足下に、巨大な魔法陣が描かれている。


 突き当り左右の隅に、二十階建て相当の塔が(そび)え、その中間に花壇に囲まれた石碑が建っていた。

 東側の塔の前、城の影の中に人が集まっている。


 杖を持った子供……大使に「鍵の番人」と呼ばれていた者が、声を掛けた。

 人垣が割れ、王冠を戴く壮年の男性と、王妃らしき中年女性が歩み出た。人々が列を正す。


 塔の前には天幕と、等身大の姿見が置かれていた。


 国王が満面の笑みで、久方振りに会う玄孫(やしゃご)を抱きしめ、何か言う。

 黒山羊の王子も笑顔でそれに応えた。

 王の抱擁から解放されると、王妃とも和やかに言葉を交わす。


 黒山羊の王子が掌で政晶を示し、国王夫妻と居並ぶ家臣に紹介した。

 国王が歩み寄り、政晶(まさあき)の頭を撫でながら何か言っている。


 一歩退いた位置に控える大使を振り返ると、小声で訳してくれた。

 「ムルティフローラにようこそ、坊や。元気そうな子で安心した。父親の幼い頃に瓜二つだな。あの子が戻ってきたのかと思ったぞ、とおっしゃっています」

 「は……初めまして。王様」

 政晶は緊張に震える声で、何とかそれだけ言った。その言葉を大使が訳すと、国王は満足げにうなずいた。


 国王夫妻と、娘である三つ首山羊の王女は、よく似ていた。

 三人とも蜂蜜色の髪で、深い湖のような瞳をしている。黒山羊の王子と四人で並ぶと、全員がどこかしら似ていて、誰にでもよくわかる「身内の顔」だった。

 つまり、政晶(まさあき)も、この「身内の顔」の一員なのだ。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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