表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の血族  作者: 髙津 央
第二章.王都

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/93

31.国民☆

 政晶(まさあき)が生まれる遥か以前、二千年以上前から存在する古い街並みが、ゆっくりと流れて行く。


 道の両脇には、黒山羊の王子殿下の帰国を喜ぶ民が詰めかけていた。

 科学文明の国なら、ケータイや小型端末などで写真を撮るのだろうが、この国の民は、馬車の進路を(さまた)げぬよう、道の端に寄って手を振り、声を掛け、その姿を目に焼き付けている。


 黒山羊の殿下の膝では、使い魔の黒猫が欠伸(あくび)をしている。

 「魔力を持つ僕が生まれて、まだ生きてるのが気に入らない人たちがいたんだけどね」

 叔父が、いつもと変わらない口調で、物騒な話を始めた。



 数年前、黒山羊の殿下は仕事帰りに拉致された。

 駐在武官と警察の協力で無事に保護され、主犯らは処刑された。


 それまでは大袈裟だと警護を断っていたが、警察と大使と駐在武官の双羽(ふたば)に強く説得され、事件後は常に双羽の警護を受けている。

 「君には大事な役目があるから、多分、人間に何かされることはないと思うよ」


 ……それって「人間以外の何か」に、なんかされるん前提なん?


 危険情報に過敏になっている政晶(まさあき)が、叔父を見る。

 隣に座る大使が穏やかな声で言った。

 「山の祭壇までの道中、騎士隊が護衛致しますし、呪医も同行しますのでご安心下さい」


 ……うわぁ……そんなん「めっちゃ危ないです」言うとんと一緒やん。


 政晶は顔を強張らせたまま、二人を交互に見た。

 「我が国について、どの程度ご存知ですか?」

 「えっと、地理の教科書とかに載っとう事くらいしか……」


 ラキュス湖北地方に位置し、内陸の盆地で、寒暖の差が激しく、魔物が多く棲息している。

 プラティフィラ帝国の流れを汲む古い魔法王国で、周辺の同盟国を除いて、ほぼ国交はない。

 かつては国連に加盟していたが、現在は脱退している。


 同盟外の日之本帝国に大使館を置く理由は、今、わかった。


 ……緑のおっちゃん、うちと親戚の為だけに日之本におるんか……


 「左様でございますか。体力作りを兼ねて、徒歩でゆっくりと山への旅をお楽しみ下さい。今の時期は、夏のお花がきれいですよ」

 大使がお気楽な観光案内を口にする。


 山脈は、城壁の外側からでも、遥かに(かす)んで見えた。

 徒歩で何日かかるのか。夏休みが終わる迄に帰国できるのか。

 いや、それ以前に生きて帰れるのか。

 何をどう安心すればいいのか不明な情報を与えられ、政晶は内心、穏やかでいられなかった。


 ……要するに、一応気ぃ付けとけ、言いたいねやろ。なんも心配いらんのやったら、別に言わんでもえぇやん。引き受けんかったらよかったゎ。


 苦い後悔が押し寄せる。


 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

【関連が強い話】
碩学の無能力者」 友田君のその後。
飛翔する燕」 騎士〈雪〉たちの護衛任務直前の様子。
汚屋敷の兄妹」 巻末の家系図左半分の人たちの話
汚屋敷の跡取り」 巻末の家系図左半分の人たちの話別視点

野茨の環シリーズ 設定資料
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ