27.馬車☆
エレベーターが上昇するような一瞬の浮遊感の後、叔父に声を掛けられた。
目を開けると、何もない石壁の部屋だった。
大使に促され、皆の後について外に出る。
政晶は、眩しさに目を細めた。
瞼越しに真夏の日差しが感じられ、熱風が頬を撫でる。
ゆっくりと目を開く。
一気に眠気が消し飛んだ。
空気は澄み渡り、雲ひとつない蒼天の彼方に山脈が連なる。
平野の上に森の陰が落ちていた。
遠くに村らしき家の集まりが点々と見え、畑が広がっている。植わっているのは、政晶が見た事のない種類の葉物野菜だ。
畑を貫いて石畳の道があり、麦わら帽子やとんがり帽子を被った人々が、徒歩や馬車で行き交う。
人々の行く先を目で追うと、巨大な城壁に囲まれた街があった。
政晶は長袖の衣服が汗で貼り付き、貫頭衣だけでも脱ぎたかった。
政晶よりも厚着の叔父と双羽は、全く汗をかいておらず、涼しい顔をしている。道行く人々も同様だ。
「結界がございますので、王都の中は魔法で移動できないのですよ。馬車をご用意致しておりますので、こちらへ」
大使の声に横を見ると、道の脇に三頭立ての馬車が停まっていた。
騎士と馬が馬車の傍らに控えている。男女各三人で、いずれも双羽隊長と似た服装だ。
何故か腰の剣には刀身がなく、柄と鍔だけを帯びている。胸には鷲の徽章が輝いていた。
馬車には、王家の紋章と黒山羊が描かれていた。王子殿下の専用車だ。
御者が恭しく頭を垂れ、扉を開ける。
外交官は政晶を乗せると最後に自分も乗り、扉を閉めた。




