23.血筋☆
応接間は、玄関の左隣だった。
執事の言う「皆様」は、宗教と双羽、どこかの民族衣装を纏った緑髪の男性だった。
染めたのでなければ、ラキュス湖周辺に住む「湖の民」と呼ばれる少数人種だ。
政晶たち「陸の民」より多くの銅を必要とし、髪が緑色なのはそのせいだ、と教科書に載っていた。
「この人ね、ムルティフローラの外交官」
「初めまして。黒山羊の殿下の甥御様。私は、国王陛下より特命全権大使を拝命致している者です。在日之本帝国ムルティフローラ大使館に駐在しておりますので、御用の際はお気軽にご連絡下さい」
父より少し年上に見える湖の民の男性は、立ち上がって恭しくお辞儀した。
政晶は、生まれて初めて対面した湖の民に、何と言えばいいかわからず、取敢えずお辞儀を返した。
何はともあれ、何の説明もなくケータイに登録されていた「大使館」の番号が、ホンモノだったことは、たった今、わかった。
「今日は用があるから、家にいて欲しかったんだけど、お父さんから聞いてなかった?」
「えっ……はい? ……えっと、すんません」
……何やそれ? 今、初めて聞いてんけど……? あのダボ、何で要らんことはベラベラ喋る癖に要ることは言わへんねん! おっちゃんも、僕に直接言うてくれたらえぇのに……
政晶は宗教に頭を下げ、顔を引き攣らせながら、勧められた席に腰を下ろした。
大食堂に負けず劣らず、豪奢な応接間だ。
座り心地のいいソファに、汗だくのまま座るのは気が引ける。
宗教の命令で、執事が応接間を出て行った。
「しょうがないなぁ。あ、そうだ、魔法の国には本名を言う習慣がなくて、肩書とか、お家の紋章で呼ぶから、大使は名前を言わなかったの。君も名乗っちゃダメだよ」
「え……? あ、はい?」
「えっとね、双羽さんは家紋が二枚の羽で、湖北語だと発音が難しいから、日之本語の苗字っぽく訳して【双羽】さん。肩書はムルティフローラ王国近衛騎士団、赤い盾小隊隊長。僕の護衛」
「父上は、私の説明もなさらなかったのですか?」
双羽隊長が呆れたように言った。
政晶は、父のいい加減さに申し訳なくなり、身を縮めながら頷いた。
大使が用件に入る。
「既に父上からお話があったかもしれませんが、私からも改めてご説明申し上げます。ムルティフローラ王家の血を引くあなた様には、一度、本国で能力の検査を受けて戴かなければなりません」
……夏休みに一回だけ高祖母ちゃんに会いに行く……て、これか!
大使は、不安げな政晶を安心させるように、優しく微笑んで続ける。
「検査と申しましても、難しいことはございません。お体のどこかにある王家の紋章を確認させて戴いた後、右の塔の扉を開け、可能な限り階段を昇って戴くだけです」
「こんな形の痣がある筈だよ」




