22.訪問
六月最後の土曜。
政晶は昼食の後、赤穂委員長と一緒に友田の家へ遊びに行った。
あれから何度か、友田は巴准教授に呼ばれて屋敷に来たが、政晶が友田の家を訪れるのは、初めてだ。
赤穂も、友田とは小学校の時からのオカルト仲間だが、初訪問だと言っていた。
友田は今月末、父親の転勤に伴い、転校する。
家の事情で、引越し先は誰にも教えられない、と暗い顔で言った。
最近は教室でも気配を消さず、誰とでも話し、よく笑うようになっていた。
仲良くなれたと思った矢先の転校で、政晶は落胆したが、メールは大丈夫だと聞いて、少し安心した。
二人は居間に通され、友田の姉の手作りクッキーでもてなされた。
他愛ない話をして、オカルト話をして、その流れでデーレヴォを呼び出した。
「スゲー! マジックアイテム、生で見んの初めてなんだ! スゲー!」
赤穂委員長は、大興奮でスゲーを連発していた。感動に言葉が追い付かないらしい。
友田に、レンタル品で間もなく返却だ、と説明され、物凄く残念そうに悔しがった。
政晶も最近、かなり元気を取り戻していた。以前より口数が増し、今日も普通に会話に参加している。
まだ、赤穂委員長の冗談に弱々しく笑う程度だが、始業式の日より、ずっと生き生きしていた。
夕飯前にお開きとなり、三人でメルアド交換しようと、各自、ポケットからケータイを出す。
政晶は、着信履歴に手が震えた。
今朝まで何もなかった履歴欄が、宗教からの着信で埋まっている。
取り敢えず、この場は平静を装って、メルアドを交換して別れた。
……最初の奴は……あ、友田君の家に着いたばっかりの時か……
今さら返事をするのは何となく気まずく、走って帰る。
屋敷に着くと、玄関で化け猫の執事が待ち構えていた。
「政晶さん、応接間でご主人様たちがお待ちです」
執事は、いつ見ても同じスーツをきっちり着こなしている。
化け猫は暑さを感じないのか、汗ひとつかいていなかった。
「あの……えっと……手を洗って、着替えてから……」
「皆様、永らくお待ちです」
父よりも大柄な執事は、有無を言わせぬ調子で言った。
主人の命令に忠実な使い魔に、どの程度の融通が利くか不明だが、政晶がトイレに行くのは、妨げられなかった。
手を洗い、ついでに汗だくの顔も洗って扉を開けると、真正面で執事が待ち構えていた。
「皆様がお待ちです。応接間にお越し下さい」
政晶は渋々、執事の後に従った。




