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野茨の血族  作者: 髙津 央
第一章.帝都

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21/93

21.弁当☆

 友田は、昨日も今日も、先週と変わりなく、目立たない空気だった。

 朝、目があった時、お互いに小さく会釈した以外は、これまで通り。


 ……多分……昨日のお礼とか言うた方がええんやろけど……そんな事してヘンに目立ったら、他の奴に何こそ言われるやわからんし、そんなんで友田君に迷惑掛ける訳いかんわなぁ。


 そうこうしている間に昼休みになった。

 机を寄せたり校庭に出たり、各自、思い思いの場所で弁当を食べる。

 班の女子は、他クラスの女子と校庭へ行った。


 空いた席へ、さも当然のように、赤穂(あこう)委員長が座る。雨の日以外はずっとこうだ。

 小学校から仲がいいらしい友田と二人、弁当を食べながらオカルト話をしている。

 趣味の話だけで昼休みが終わり、政晶の家に来たことは話さなかった。


 ……やっぱり友田君も、ウチに来たこと、言わん方がえぇ思とんやろな。


 政晶は、一人で黙々と弁当を食べた。



 翌日も同じような昼休みになる筈だった。

 友田が、向いに座った赤穂(あこう)に名刺大のカードを渡している。


 「お、巴の母ちゃん、料理上手いんだな。一口くれよ」

 カードを受け取ろうと腰を浮かせ、自然な動作で視界に入った唐揚げを一個つまむ赤穂。


 「俺の母ちゃん、料理下手でさー、こんなのでもよかったら、交換で何か取って」

挿絵(By みてみん)

 赤穂は政晶に弁当箱を向けた。

 政晶(まさあき)は胸が詰まって何も言えず、(うつむ)いた。


 寄り弁……卵焼きを失敗したらしきスクランブルエッグは焦げ、キュウリの厚みはバラバラ、べっちょりと煮崩れた煮物と、皮を剥いた八朔(ハッサク)が直入れしてあり、色々な汁が染み込んだご飯は、茶色くなっていた。


 ……赤穂君、下手でもえぇやん。母さんが作ってくれたんやったら。

 作ってくれる母さんが、まだ生きとんやったら、それで。料理くらい下手でもえぇやん。

 赤穂君の母さん、元気なんやろ?

 下手でも頑張って早起きして、赤穂君に弁当作ってくれとうやん。


 唐揚げを頬張ってヘラヘラしていた赤穂が、一瞬で青ざめた。焦りでしどろもどろになりながら、謝る。

 「うわ……ご……ごめん! すまん!」

 異変を感じた同級生が、チラチラこちらに目を遣る。


 友田もそっと立ち上がり、政晶の様子を見た。

 政晶は声もなく、大粒の涙を零していた。自分でも、これしきのことでこんなに涙が出るとは思いもよらず、自身の涙に困惑している。


 ……母さんの灰……海に()きに行った時も、涙なんか出んかったのに、何で今頃……


 「ちょっとー、委員長の癖に何いじめてんのよー」

 副委員長の網干(あぼし)が、箸を握ったまま、こちらに来て赤穂(あこう)委員長を非難する。

 それに呼応するように、他の女子たちもガタガタと音を立てて席を立ち、あっという間に赤穂を包囲した。

 みんな険しい表情だ。

 立ち上がっていた友田は、図らずも赤穂を囲む人垣の一部になっていた。


 「あ……その、いじめじゃなくって、ちょっとしたおフザケって言うか、美味そうだったからつい……まさか、泣くとは思ってなくて、その……」

 「いじめっ子って大抵そう言うよねー」

 「相手が嫌がった時点でいじめじゃん」

 「悪気がなかったら何してもいいってもんじゃないのよ」

 「赤穂君、最悪~」

 「委員長サイテー」

 女子達が囂々(ごうごう)と非難する中、政晶は首を横に振り、ブレザーの袖で涙を拭った。


 ……何か言わな……赤穂(あこう)君が悪もんにされてまう……

 僕が勝手に悲しなって、涙出てもただけやのに……赤穂君、別に悪ないのに……


 男子たちは、恐ろしい物を見る目で固唾(かたず)を呑み、こちらを見守っている。弁当に集中して無関係を決め込む者もいた。

 「いっ……いじ……(ちゃ)……これ、母さんじゃ……(ちゃ)う……」

 嗚咽で言葉にならない。


 政晶と赤穂委員長を見比べ、躊躇(ちゅうちょ)していた友田が、ついに口を開いた。

 「あ……あの……」

 空気の友田に視線が集中し、口をつぐんだ。

 ひとつ深呼吸して、緊張で言葉を詰まらせながらも、政晶(まさあき)に代わって事情を説明してくれた。


 「とっ巴の母ちゃん、先月亡くなったばっかりなんだって……それで、多分……いじめじゃなくって、単に委員長が『母ちゃんの弁当』って、地雷踏んだだけって言うか……」


 政晶は、しゃくりあげながら頷いた。

 教室は、水を打ったように静まり返った。


 「うわ! マジごめん! 知らなくって、その、ホントごめん!」

 「えッウソ……マジで……?」

 「えぇーッ? 可哀想~……」

 「あー……取敢えず、これ使って」

 平謝りする赤穂(あこう)

 一気にざわつく教室。

 同情する女子達。

 網干(あぼし)副委員長が、そっとポケットティッシュを差し出してくれた。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

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野茨の環シリーズ 設定資料
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