表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の血族  作者: 髙津 央
第一章.帝都

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/93

20.魔法☆

 巴准教授が唐突に話題を変えた。

 「あ、そうだ、名前。十五歳になったら自分で好きな名前に変えられるんだって」

 「えッ? マジっスかッ?」

 友田鯉澄(ともだ りずむ)が全力で食いついた。


 「僕はよく知らないけど、前に経済(つねずみ)が調べてたんだ。色々条件はあるけど、家庭裁判所で手続きするんだって。手数料が何千円か掛かるって言ってた」


 ……父さんはえぇけど、宗教(むねのり)叔父さんと経済(つねずみ)叔父さん……名前で苦労してそうやもんなぁ。


 政晶は、宗教の顔をまじまじと見た。


 ……あれっ? 調べただけで、名前変えてへんの? なんで? 変えた名前がアレなん?


 「ありがとうございます!」

 友田が立ち上がって最敬礼した。

 「名前が嫌だと、自分を好きになれないものね」


 巴准教授の言葉に、友田の目から涙が零れそうになる。友田は、細くゆっくりと息を吐いて顔を上げた。

 改名には興味なさそうな口ぶりだが、巴准教授は少し寂しそうに微笑んで、友田に座るよう促した。


 しばらく中学の話をしていると、人外二人が戻ってきた。

 腕環の少女デーレヴォは、近所のおばちゃんのような恰好になっていた。

 表情がない為、服を着ても生々しいマネキンのままだ。


 巴准教授は、執事に支えられて立ち上がり、杖を手に取った。

 戸口に立ったままのデーレヴォに近付き、杖の先端にある黒山羊で彼女の肩に触れる。

 「じゃあ、この服を同期させるね」

 友田が(うなず)くと、父と同じ顔の巴准教授は、可愛い声で呪文を唱えた。


 初めて耳にする不思議な響きの言葉だった。

 今、目の前に本物の魔法使いがいる。

 叔父が魔法を使っている。

 全身に鳥肌が立つ。

 感動なのか、恐怖なのか、興奮なのか。

 自分でもわからない感情が、政晶の全身を駆け巡った。


 長いような短いような詠唱が終わり、魔法使いの巴准教授は、杖の石突きで、床をトントンと打った。

 デーレヴォには、目立った変化はない。


 「服を同期……えっと、霊的に固定したから、腕環から出し入れする度に服を着せなくてもよくなったよ。着替えもできるけど、これ以外の服は、腕環に戻した時に脱げて、次に腕環から出したらこの服に戻ってるからね。一応、確認の為に戻してくれる?」


 巴准教授の説明に最敬礼で応え、友田が質問した。

 「ありがとうございます! えっと、戻すって……どうやればいいんでしょう?」

 「腕環に戻るように命令するか、腕環を外せばいいと思うよ」


 友田は無言で腕環を外した。デーレヴォの輪郭がぼやける。

 全身が色付きの(もや)になり、あっという間に腕環に吸い込まれて消えた。


 「もう一度出して、どんな機能があるか聞いてくれる?」

 言われるまま、友田は腕環を着けた。

 先程と同様にルビーが輝き、靄が渦を巻く。

 反射的に目を逸らす。友田と目が合った。


 「大丈夫。成功してるよ」

 巴准教授に声を掛けられ、デーレヴォを見る。

 服を着ていた。

 友田が巴准教授に礼を述べ、デーレヴォに質問する。

 「姿を消すこと、壁を通り抜けること、空を飛ぶことができます。ご主人様」

 「あれっ? 家事用かと思ったんだけど、諜報用だったのかな?」

 腕環の答えに、巴准教授が首を傾げた。


 「まぁ、どんな機能でも使う人次第だからね」

 「使う人次第……」

 二人同時に首を傾げると、巴准教授はやわらかな笑みを浮かべて説明してくれた。


 「例えば、ボールペンは筆記具だけど、使い方によっては物理的に人を殺す凶器にもなるからね。どんな道具も知識も、使う人によって良いことにも悪いことにも使える。この腕環を凶器にしないように気を付けて使ってね」

 友田は何度も礼を述べ、「最悪な母親」が居る家に帰って行った。



 その夜、政晶は幾つもの疑問が解消し、久し振りにすっきりした気分でベッドに入った。


 ……おっちゃんは帝国大学の先生で、ホンマに魔法使いで、執事さんは執事さんやのうて、おっちゃんの使い魔で……えーっと、化け猫で、おっちゃんが飼い主やから「ご主人様」言うて、父さんらには懐いてへんから、言う事きかへんし、あんな態度なんや。ポテ子は大きいても普通の犬やから、そらまぁ、化け猫は恐いわなぁ……


 明かりを消した部屋で、天井を見詰めたまま、考えをまとめる。


 ……そしたら、高祖母(ひいひいばあ)ちゃんもホンマに魔女なんやろな。双羽(ふたば)さんが何や知らんけど恐かったんも、魔女やったからなんや。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

【関連が強い話】
碩学の無能力者」 友田君のその後。
飛翔する燕」 騎士〈雪〉たちの護衛任務直前の様子。
汚屋敷の兄妹」 巻末の家系図左半分の人たちの話
汚屋敷の跡取り」 巻末の家系図左半分の人たちの話別視点

野茨の環シリーズ 設定資料
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ