18.少女
巴准教授は、黒猫型になった使い魔を撫でながら、説明を続けた。
「使い魔には、魔法の主従契約が必要だけど、この手のゴーレムは家電製品みたいな物だから、誰でも使えるんだよ。宝石が二種類嵌ってるから、赤いのがルビーで体力、青いのはサファイアで魔力の充電池みたいな物だと思う」
政晶は、友田の腕環を見た。
赤い宝石が淡い光を放っている。
……家電って……えーっと、要は、擦ったら魔神が出てくる魔法のランプの腕環版か?
「こちらを向いても大丈夫です。シーツを被せました」
双羽の声に、政晶と友田は顔を見合わせ、微かに頷き合った。同時に、ゆっくりと少女の方を見る。
銀髪の少女は、純白のシーツを巻きつけられて佇んでいた。
金属光沢の髪が腰まで伸び、瞳も銀色。年は高校生くらいに見えるが、表情がなく、人形のような美しさだった。
「服はセットじゃないんだね。うちで余ってるのをあげるね。黒江」
黒猫がベッドから飛び降りる。板張りに着地した瞬間、ポンッっと何かが弾ける音と同時に執事に戻った。
変身に一秒と掛かっていない。
巴准教授が、執事になった使い魔に、腕環の少女に服を着せるよう命じる。
執事は、主人に一礼すると、少女に「来なさい」と声を掛け、ドアを開けた。
腕環の少女は、マネキンのように突っ立ったまま、動かない。
「友田君、腕環に命令して」
巴准教授に言われ、友田は明らかに狼狽えていた。准教授が助言を与える。
「まず名前を名乗るように言って、それから、その名前を呼んで命令するの。今は『この部屋に戻ってくるまで黒江の指示に従え』って言って」
「はい! えっと、名前を名乗って……下さい」
何故か敬語になる友田。
「デーレヴォ」
少女の形のいい唇が動いた。
政晶は、腕環から出てきた少女が日之本帝国語を理解した事に驚いた。
友田も同じく驚いて質問する。
「あ、えっ? 日之本語わかるんだ? 何で? ……あ、えっと名前なんだっけ? すみません、もう一回言って下さい」
「湖南語とご主人様がご存知の言語は全て理解できます。私の名は【デーレヴォ】です」
腕環の少女デーレヴォは、音声案内のように答えた。
「湖南地方で製造されたんだろうね。きっと元々輸出用だから多言語対応なんだよ。名前は湖南語で【樹木】って言う意味だよ」
巴准教授は好奇心に瞳を輝かせ、狼狽する友田を他所に説明した。
湖南地方……ラキュス湖南地方。
最近習ったばかりの地理の教科書の一節が、脳裡を過る。




