17.腕環
「え……それ? ……あ、これ? 魔法の腕環って聞きましたけど……」
友田は、パーカーのポケットから、銀の腕環を取り出した。
政晶もカップを置いて、腕環に注目する。
准教授と級友、どちらに見せるか決めかね、友田はそのままの姿勢で硬直した。
複雑に絡み合う木の枝の意匠で、赤と青の宝石が一個ずつ嵌っている。
「悪い物ではないね。使い方は知ってる?」
それは「品質」なのか、「邪悪な物ではない」という意味なのか。
友田が、恐る恐る左手首に腕環をつけた。
赤い石が淡く輝き、白い靄が立ち昇る。ゆっくりと渦を巻きながら、テーブルの横に凝集し、人のような形を成す。
次の瞬間、赤い石が閃光を放った。
「うわーッ!」
政晶と友田が同時に叫び、耳まで真っ赤にして俯いた。
光が消えた後、テーブルの横に銀髪の少女が佇んでいた。全裸で。
「友田君、腕環見せてくれる?」
巴准教授は、平然と友田に話し掛けた。
友田が、床を見詰めたまま叫ぶ。
「な……な……な……何なんですか、これ?!」
「ゴーレムの一種だね。おつかい頼んだり、家の用事手伝ってもらったりするの。正確なことはちゃんと調査しないとわからないけど、使用者の魔力や体力が動力源だと思うよ」
巴准教授は、嬉しそうに腕環の解説をした。
……おっちゃん、何で、友田君が魔法の腕環持っとん、わかったんや?
「先生の使い魔……みたいなもんですか?」
「失礼な! 私をこんな、誰にでも使われる節操なしと一緒にしないで下さい!」
執事の怒声に、背中を殴られたような衝撃を受け、竦み上がる。
政晶は、執事が感情を露わにしたのを初めて見た。
「クロ、おいで。だっこしよう」
巴准教授が言った途端、ポンッと紙袋が割れたような音がした。黒猫が政晶たちの足下をすり抜け、ベッドに飛び乗り、主人の腕の中に納まる。
今、目の前に居るのは、政晶が中庭で何度も見た黒猫だった。
……化け猫……も、ホンマやった……!
黒猫に変身した執事は、琥珀色の目で友田を睨み、フンッと鼻を鳴らした。
「あーハイハイ、クロが一番上等で忠実なのは、僕が知ってるからね~」
巴准教授が、幼児をあやすように言って、使い魔の背中を撫でる。
黒猫は目を細め、ゴロゴロ喉を鳴らし始めた。この姿だけを見ると、完全にただの猫にしか見えない。
「なぁ、友田君、それ何なん?」
政晶は、化け猫のことはひとまず置いて、腕環の持ち主に聞いた。無意識に方言が口をついて出る。
顔を窓の方へ向けたまま、少女が居る辺りを親指で指した。
友田は政晶が示した方は向かず、頭を下げた。
「すまん、俺もさっき占い師さんから借りたばっかで、詳しいこと、知らないんだ」
双羽が溜息を吐いて、腕環から出てきた少女に歩み寄る。




