15.下僕
三人で瀬戸川公園の北側にある屋敷に戻った。
台所に入ると、流しで何かしていた執事が、こちらを向いた。
水を入れていたらしい。右手に湯沸かしポットを提げて、テーブルの横を通る。
「おかえりなさい」
「う……うん。ただいま」
執事は、友田の存在に気付いていないかのように、政晶にだけ声を掛けた。
政晶は友田の前にグラスを置きながら、ぎこちなく返事をした。
……さっきは「いってらっしゃい」も言わんかったのに、何やねん。しかも、初対面の友田君は無視。ホンマどっかおかしいんちゃうか?
友田が震える声で聞いた。
「あ……あの……もしかして……黒江……さんですか?」
「そうですが、それが何か? 政晶さん、ご飯と味噌汁はできています。生地は念のために冷凍庫に入れてあります」
執事の黒江はそれだけ言って台所を出て行った。
「あ、あのさ、巴ってひょっとして親戚に帝大の先生……いる?」
「……何で黒江知っとん? 何でおっちゃんの仕事知っとん? 会うたことあるん?」
政晶は驚いて、矢継ぎ早に質問を返した。
方言に戻っていたが、自覚はない。
「帝大のサイトで見た。あの黒江さんって魔道学部の巴先生の使い魔だよな? さっきの叔父さんが巴先生?」
「違う。も一人のおっちゃん」
政晶は、取敢えず、答えられる質問にだけ答えた。
……ツカイマってなんや? 帝国大学のサイトに何が載っとんや? あのおっちゃんは、大学で何の勉強教えとんのや?
ご飯、味噌汁、手造りハンバーグ、サラダ。
巴家は毎食、庶民的な献立だった。
三人は、食事をしながら学校の話をした。
主に経済が話を振り、友田が答える。
政晶は一言二言返すが、全く会話が盛り上がらない。
友田は、去年のクラスで起こった面白い出来事を語ったが、政晶の反応は相変わらず薄かった。
前の学校での部活を聞かれ、陸上部だったことを単語で返しただけだ。
食事が終わり、話のネタも尽きつつあり、友田が気マズそうに台所を見回す。
「政晶さんとお友達の方、ご主人様がお呼びです」
不意に声を掛けられ、友田が飛び上がらんばかりに驚いた。
政晶は怪訝な顔で、いつの間にか入ってきた執事を見た。
友田が恐る恐る政晶に聞く。
「ご主人様って?」
「もう一人の叔父さん」
政晶が標準語で答えて立ち上がる。




