表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の血族  作者: 髙津 央
第一章.帝都

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/93

14.招待

 空は晴れ渡り、少し歩いただけでうっすら汗ばむ程の陽気。

 公園には、軽快な流行曲と呼びこみの声と、まつりを楽しむ人の声が満ちていた。


 ステージ前は、家族連れ()で埋め尽くされ、駆け出しの歌手が笑顔を振りまきながら、恋の切なさを歌っている。

 二人は足を止め、一曲聴いて、フリマのエリアに向かった。


 一般家庭の不用品を持ち込んだブースが連なる。

 ピクニックシートの上に服、本、ベビー用品、玩具、引出物や粗品の食器やタオル等が、所狭しと並んでいた。


 政晶(まさあき)は、父から小遣いとして二千円渡されていたが、特に欲しい物がある訳ではない。

 何となく、足を向けただけだ。


 食べ物の屋台の区画に行き当たったが、何も買わずに通過した。

 帝都でも、商都と似たり寄ったりの屋台ばかり。どこも順番待ちの長い列ができていた。

 そこを抜けると、業者のブースが並ぶ区画に出た。

 こちらは素人区画よりも混雑している。


 経済(つねずみ)が人にぶつかった。衝突した二人が同時に謝る。

 「あ……友田君……」

 顔を上げたその人は、友田だった。


 目立たない地味な私服で、完全に人混みに溶け込んでいる。

 経済(つねずみ)は、顔だけ政晶(まさあき)に向けて聞いた。

 「ん? 政晶君のお友達?」

 「同じクラス。掃除の班が一緒の友田君」

 空気のような級友でも、学校の外で会うと何となく緊張する。

 経済(つねずみ)は、にこやかに友田の方を向いて何か言いかけ、固まった。


 ……そら、友達やないて思うわな。実際、一番接点あるのに全然、喋ってへんし。


 「……仲良くしてあげてね」

 気を取り直したように、経済(つねずみ)は落ちついた声で言った。現状、仲良くないと判断すれば、そう言わざるを得ない。


 友田が黙って(うなず)いた。政晶は叔父の陰に隠れる。

 「よかったらうちでお茶でもどう?」

 「えっ? いえいえいえいえ、そんな、ご迷惑になりますし……」

 友田は胸の前で両手を振り、全力で断った。


 ……なんで誘うん? おっちゃん、友田君、別に友達ちゃうのに。


 「おうちの人と一緒に来てるの?」

 「あ、いえ、一人です。今日はみんな出掛けてて、夜まで俺一人なんで……」

 友田が正直に答えた。


 ……イヤやったら、適当に用事言うて、逃げたらえぇのに。要領悪い正直もんやな。


 「よかったらうちで一緒に食べない? この子は遠くから引っ越して来たばかりで心細いから、色々教えてもらえるとありがたいんだけど……」

 政晶は経済(つねずみ)の陰で表情を失くし、固唾(かたず)を呑んで、友田の出方を見守った。


 「いえいえ、そんな、他所(よそ)んちでお昼ご飯なんて厚かましい……」

 友田が首を横に振って断る。


 ……そや、頑張れ! 友田君!よう知らん奴の家で、いきなり一緒にご飯とかないわなぁ!


 「今日、この子の父親は急に仕事が入って一人分余ってるんだ」

 驚いて二人を見比べる友田に、父と同じ顔に眼鏡を掛けた叔父が、笑いながら説明した。

 「私はこの子の叔父なんだ。うちは全然迷惑じゃないから、遠慮しなくていいよ」


 ……おっちゃん、どんだけ友田君にハンバーグ食べさしたいんやッ? 冷凍したらえぇやん。


 友田は経済(つねずみ)の押しに負け、招待に応じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』

【関連が強い話】
碩学の無能力者」 友田君のその後。
飛翔する燕」 騎士〈雪〉たちの護衛任務直前の様子。
汚屋敷の兄妹」 巻末の家系図左半分の人たちの話
汚屋敷の跡取り」 巻末の家系図左半分の人たちの話別視点

野茨の環シリーズ 設定資料
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ