14.招待
空は晴れ渡り、少し歩いただけでうっすら汗ばむ程の陽気。
公園には、軽快な流行曲と呼びこみの声と、まつりを楽しむ人の声が満ちていた。
ステージ前は、家族連れ等で埋め尽くされ、駆け出しの歌手が笑顔を振りまきながら、恋の切なさを歌っている。
二人は足を止め、一曲聴いて、フリマのエリアに向かった。
一般家庭の不用品を持ち込んだブースが連なる。
ピクニックシートの上に服、本、ベビー用品、玩具、引出物や粗品の食器やタオル等が、所狭しと並んでいた。
政晶は、父から小遣いとして二千円渡されていたが、特に欲しい物がある訳ではない。
何となく、足を向けただけだ。
食べ物の屋台の区画に行き当たったが、何も買わずに通過した。
帝都でも、商都と似たり寄ったりの屋台ばかり。どこも順番待ちの長い列ができていた。
そこを抜けると、業者のブースが並ぶ区画に出た。
こちらは素人区画よりも混雑している。
経済が人にぶつかった。衝突した二人が同時に謝る。
「あ……友田君……」
顔を上げたその人は、友田だった。
目立たない地味な私服で、完全に人混みに溶け込んでいる。
経済は、顔だけ政晶に向けて聞いた。
「ん? 政晶君のお友達?」
「同じクラス。掃除の班が一緒の友田君」
空気のような級友でも、学校の外で会うと何となく緊張する。
経済は、にこやかに友田の方を向いて何か言いかけ、固まった。
……そら、友達やないて思うわな。実際、一番接点あるのに全然、喋ってへんし。
「……仲良くしてあげてね」
気を取り直したように、経済は落ちついた声で言った。現状、仲良くないと判断すれば、そう言わざるを得ない。
友田が黙って頷いた。政晶は叔父の陰に隠れる。
「よかったらうちでお茶でもどう?」
「えっ? いえいえいえいえ、そんな、ご迷惑になりますし……」
友田は胸の前で両手を振り、全力で断った。
……なんで誘うん? おっちゃん、友田君、別に友達ちゃうのに。
「おうちの人と一緒に来てるの?」
「あ、いえ、一人です。今日はみんな出掛けてて、夜まで俺一人なんで……」
友田が正直に答えた。
……イヤやったら、適当に用事言うて、逃げたらえぇのに。要領悪い正直もんやな。
「よかったらうちで一緒に食べない? この子は遠くから引っ越して来たばかりで心細いから、色々教えてもらえるとありがたいんだけど……」
政晶は経済の陰で表情を失くし、固唾を呑んで、友田の出方を見守った。
「いえいえ、そんな、他所んちでお昼ご飯なんて厚かましい……」
友田が首を横に振って断る。
……そや、頑張れ! 友田君!よう知らん奴の家で、いきなり一緒にご飯とかないわなぁ!
「今日、この子の父親は急に仕事が入って一人分余ってるんだ」
驚いて二人を見比べる友田に、父と同じ顔に眼鏡を掛けた叔父が、笑いながら説明した。
「私はこの子の叔父なんだ。うちは全然迷惑じゃないから、遠慮しなくていいよ」
……おっちゃん、どんだけ友田君にハンバーグ食べさしたいんやッ? 冷凍したらえぇやん。
友田は経済の押しに負け、招待に応じた。




