13.序列
四月の第三日曜日。
父は取引先の呼び出しで、朝から慌ただしく出て行った。
今日は、区民まつりに連れて行かれる筈だった。
予定が流れ、政晶がホッとしたのも束の間、父に頼まれたのか、経済に連れ出された。
「ずっと家に籠ってると、あまり良くないからね」
父の代わりに休日を潰してくれる。叔父の厚意を無碍にはできない。
それでも、よく知らない親戚との外出が嬉しくなる訳ではなかった。政晶は、ただ、叔父に言われるまま、ついて行く。
執事が玄関の掃除をしていた。
ポテ子は犬舎の奥でうずくまっている。
よく見ると尻尾を足の間に入れて震えていた。
「ポテ子、いい子でお留守番するんだぞ」
経済が声を掛けると、キューン、と救いを求めるような情けない声が返ってきた。
「ポテ子、具合でも悪いんですか?」
「いや? ……あぁ、黒江を恐がってるんだよ」
「私は何もしませんのにね。勝手に恐れているのですよ」
執事の声に、ポテ子が巨体をびくりと震わせ、犬舎の奥で更に縮こまった。
政晶は、ポテ子が考える家族の順位が、何となくわかった。
一番偉い人は、散歩させてくれる父。
執事を別格で恐れている。
その執事より偉い人が、宗教。
宗教の次が、何となく恐い双羽。
経済は五番。
看護師の月見山は六番。
メイドのクロエと、猫のクロをどう思っているのか、まだ分からないが、政晶はポテ子より下に見られているらしかった。
父が毎朝、ポテ子の前で殊更に政晶を可愛がって見せ、家族の一員だと教え込んでいる。
最近、ようやく吠えられなくなったが、政晶はまだ、ポテ子が恐かった。
どういう契約なのか、執事は父にも経済にも素っ気なかった。
今も出掛ける二人に「いってらっしゃい」の一言もない。
……普通、知り合いやったら、声のひとつも掛けるやろ……? 何や知らんけど、気色悪いおっさんやなぁ……
政晶は、経済の後について歩きながら、何度目かの質問を飲み込んだ。
叔父は足を緩めて政晶に合わせると、道々、区民まつりの説明をした。
ステージとフリーマーケット。何てことない小さな催しだ。
会場は、お屋敷街の南にある瀬戸川公園。




