10.転校
印歴二二一三年四月。
帝都の中学に通う初日の朝、政晶は父から子供用の携帯電話を渡された。
電話帳には屋敷の固定電話と、父と叔父二人のケータイ、父の会社と中学校の代表番号、そして何故か「大使館」の電話番号が登録されている。
……なんやこれ? どっかの店の名前? まさかホンマにどっかの国の……いや、ないない。ないわ。流石にそれはない。こないだ言うとった親戚のおばちゃんか誰かの店なんや。
母は毎朝、バタバタ慌ただしく仕度していたが、この家の大人たちはのんびりしている。
政晶もある程度手伝いをしたが、母は、ほぼ一人で家事をこなしていた。
ここでは、何も手伝わされない。
この家では、朝の忙しい時間帯でも、用事や他愛ない話を「急ぎやなかったら晩にしてな」と断られることはないだろう。
それでも、政晶は質問を口に出せないまま、飲み込んだ。
学校が始まっても、状況は大して変わらなかった。
自己紹介の段階で案の定、珍獣扱いされた。
教壇の前に立った途端、教室の空気……特に女子の目の色が変わったのがわかった。それに対して男子が一瞬、殺気立ったのも、ひしひしと肌で感じた。
政晶の中で暗い予想が駆け巡り、声が震えた。
「巴政晶です。春休みに商都から引越してきました。宜しくお願いします。それと、髪の色は生まれつきです」
深夜まで掛かって考えた言葉を訛らないよう、発音に細心の注意を払いながら発声する。ぼそぼそと滑舌が悪くなってしまったが、何とか言えた。
「ハーフじゃなくて十六分の一だけど、こんな色です。脱色とかはしてません」
……僕は調子乗ってこんな色にしとん違う。これが地毛なんや。生まれつきなんや。
何とかそれだけ言うと席に戻った。
校内では、何処に行ってもじろじろと好奇の目で見られ、女子に根掘り葉掘り詮索された。返事は最低限に留め、訛が出ないよう、単語で話すことで切り抜けた。




