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「おいっ…、離せよっ…」
俺はおぼつかない足で踏ん張り、どこかへ連れていこうとする結城に抵抗する。
体の左半分に感じる彼の体温が落ちつかなかった。
これではまるで、付き合っていたころに戻ったようだ。
さきほど見ていた幸せな夢が、俺の頭を勘違いさせる。
俺たちはもう別れたんだ。
愛を囁いていた二人は、もういない。
「恵多、抵抗するの?」
「え…?」
思ったよりずっと低い声が、俺を牽制する。
こんなに低い声はベッドの中でしか聞いたことがない。
しかしここは看板のイルミネーションに彩られた外で、ましてや俺たちは顔すら合わせていなかったのに。
俺はとられた腕をぐいぐい引っ張る。焦っていた。
「俺のやることが聞けないの?あんな訳のわからない男には、好きにさせてたくせに?」
「な、なんのことだよ…!?」
あとにした店内で結城が見せた凶暴な一面は、すでに薄らいでいた。
しかし俺は背筋がぞくぞくとするのを止められなかった。
本能的な勘だ。
彼は怒っている。
おそらく俺に対しても。
こんなふうに問いつめられたことなど、一度もないのに。
「とぼけるの?酔って、あの男とどこに行くつもりだったの?」
「どこに…て、俺はべつに…」
「ラブホ?」
「なっ…!」
ラブホテル。
それは結城と付き合っていたころ、何度もお世話になった場所だ。
彼が言うと生々しさを感じる。
俺は頭に血がのぼるまま、動かない体を叱咤して、これ以上ないほどに暴れた。
「ふざけんな…!俺がそんなだらしなく見えるのかよ…!そういうことするやつだと思ってたのかよ…!」
「ちょっ…と、暴れないで、」




