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駄目な奴は何をやっても駄目

 車のクラクションの音が響いている。

 青白い石の河原。

 真白な全裸の幼女を抱えて、呆けた顔の父親。

 怒りに満ちた十人程の男達と、暴力の跡が生々しく残った上半身裸の男。

 山奥の寒村で、幼女暴行殺人といわれた事件の終わりであり、始まりだった。

 




 事件から四日がすぎた。

 さらに二人が死んだ。

 マスコミは、残酷な事件を大きくとりあげていた。

 数日後に入学式を控えていたため、ピンクのランドセルが数時間ごとにTVで流れていた。

 周囲からの非難と、中傷・罵倒・炎上がおこり。加害者の母親が自殺した。

 翌日、警察病院で目を覚ました加害者が、逃走し自殺した。

 関係者が事情説明のため集められた。


 「えー今回の事故について説明します。」

 いかにも中間管理職兼ベテラン刑事。

 関係者の間にざわめき。

 「えーこの写真を御覧下さい。」

 少女の上半身、胸の中間に青黒い跡。

 「普通女性の胸を触るときはですね。おい・・・」

 同伴していた若い刑事に声をかけ、乳首の上あたりに手をかぶせる。

 仕事だと理解していても嫌そうな顔の、青い刑事。

 「こうしておっぱいの上に手をのせるもんです。でもこの写真だと・・・」

 若い刑事をテーブルに寝かせ、その上に跨がる。

 写真の位置に手を重ねてのせる。

 「えーこのようになっていたと、考えられるわけなんですよね。

 これは痴漢行為をするというより、心臓マッサージをした跡にしか見えないんですよね。」

 「あんた、あんな人殺しをかばう気か!」

 「えー私としてはですね、鑑識と部下の仕事を信頼して、そこから導き出された…」

 「そんなこたあ聞いてねぇ!」

 「あいつぁうちの娘殺したんだ!」

 「死んで当然、もぉいっぺんブチ殺してぇぐらいだ!」


 《ばんっ!!》


 テーブルを叩き、慣れた威圧感で黙らせる。

 「皆さんがどのような発言をしようと、どのように考えようと自由ですが、私の話を聴いてはいただけないでしょうか?」


 「えー残念ですが、彼にはお嬢さんを傷つけるのは不可能なのです。」

 押し黙ったまま、怒りに満ちた空気。

 「えー被害者の行方不明が判明したのは、13:00時、彼と共に発見されたのは、15:00

時、で宜しいですね。」

 誤差十五分程度。

 「えー14:04時にコンビニのカメラに彼の車が映っていました。ナンバーも写っていましたし、国道のNシステムも確認できましたので間違いありません。

 現場からコンビニまで十分弱、上流で遊んでいた場所まで直線距離なら四キロ弱ですが、道なりだと三十キロ、実際車で走ると二時間程ですか。」

 舗装されていない場所も多い、曲がりくねった山道である。下りならば自転車のほうが速い。

 現場とコンビニの間は舗装されている。

 

 「彼の車、タイヤからも服からも上流の砂ではなく、現場(犯行現場)の砂が彼のズボンから、のみならず川底からは靴の跡、中州の流木からは、お嬢さんの服の繊維、ついでに川から上がった跡が河原にありました。」

 

 「えーつまり、彼は川の中からお嬢さんを救い出し、心臓マッサージなどの蘇生作業を行っていた・・・」

 「ちょっと待ってくれ! あの変態野郎はあの嬢ちゃんの服を…すっぽんぽんにしてたんだぞ! おかしいじゃねえか?!」


 「えー気化熱というのを御存知ですか?

 濡れた服を着ていると寒くなるあれなんですがね、実際彼の車エアコンの温風が最大になってました。お嬢さんの冷えた身体を少しでも暖めようとしたんでしょうね。

 あと、クラクションにガムテープが貼ってありました。甦生、心臓マッサージや人工呼吸は、体力が必要ですから交代で行うと助かる確率が高くなります。」

 静かだった。これまでマスコミに幼女暴行殺人の犯人など死んで当然と彼等は言っていたのだ。

 「やっぱおかしい、あそこは(犯行現場とされた河原)道までいきゃあ携帯が繋がるはず。持ってたよな携帯!?」

 「えー彼は確かに携帯電話を所持していましたし通話しようとした痕跡もありました。

 ですがおそらく道までいけば通話可能となることを知らなかったと推測しています。

 彼の携帯電話には複数回地図が呼び出されていました。彼は一帯に土地勘がなかったのだと思われます。」 

 「そんなはずぁねえ! あいつは人殺しだ! あいつは間違いなく人殺しなんだ!」

 娘をなくした父親がないていた。

 「そうかもしれません。今となってはわかりませんが。

 ただ、もし彼と落ち着いて話をして、蘇生作業をしていれば・・・ いえすみません過ぎたことです。」

 (我ながらよけいな事を言った。) 

 集まった方達は、青冷めていた。

 終了を告げてその場を去った。

 


 警察としてはどうすることもできなかった。少女は事故による溺死。彼がリンチによって死んだのであれば介入の余地もあるが、自殺、それも母親の自殺が引きがねと思われる。母子家庭だった彼にはもう肉親はいない。

 彼はもう死んでいるから、弁護士がつくこともなく、真実が明らかになることはない。

 もしも、マスコミ関係者が調べれば簡単に真実はわかるだろうが、その可能性は低い。 誰の得にもならないからだ。

 

 彼がどうしてあんな山の中を走っていたのかは、彼の車の中に遺書と練炭があった。 

 就職出来ないのを苦にして、自殺する場所を探していたようだ。

 

 (もしあの時彼が、道までいって救急車を呼んでいれば、もしくはコンビニに行って助けを求めていれば・・・

 たったそれだけで・・・)

 

 

 結局・・・

 

 

 



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