みどり
文化祭二日目。
内のクラスはクイズゲームで、五問正解で粗品、一問でも間違えるとバツゲームであった。
俺達は、バツゲーム用の激マズジュース補充のために、化学室にきていた。
念のためいっておくが、危険な薬品を使うからではない。俺も三原も化学部員で、化学部の展示の状況確認も兼ねているのだ。
けしてサボりの口実ではない。
とはいえ、客がくるとマズいので、準備室にいく。そっちに材料も置いてあるし。
・・・2ℓ入りペットボトルに三本は作りすぎた。
仕方ないので、バツゲームの激マズジュースにぐい飲みを使っていたのを、コップにしようとしたら、委員長に尻を蹴られたので、泣きながら逃げ出した。
そろそろ後片付けをはじめる時間である。
気合いの入った教室の展示より、化学部の展示のほうが片付けは楽なのだ。
嬉し涙くらい出るというものだ。
ちゃっかり三原も付いて来ていた。
・・・ペットボトルも持ってきてしまった、2ℓ満タンの。
「棄てるしかないか。」
「苦労して作ったのに?!」
「よし、ゆうしゃ三原よ、これを飲み干すがよい!」
「棄てようぜ。」
「いや、い~ことを思いついた。」
『豊乳秘薬』
書いてテーブルに置く。
部室の化学室を片付けて、しばらく待つ。
飽きたので、花札コイコイの四戦目。
声がする。
西池先輩と、隣のクラスの沼津と清水、マジメな女子化学部員だ。
「な~おー、何だ片付いてる…」
ダッシュ!!
「あーっ、ズルい。あたしにも一口、ひーとーくーちーぃー?!」
2ℓが、あっという間。
西池先輩は、それなりだが、あとの二人はペッタン・・・成長途中である。
おいおい清水さんよ、飲めなかったからって、ペットボトルについた雫を集めようとするな、切ないから。
まさか、引っかかるとは・・・
沼津さんが顔を青くして、走りだした。
無理もない、あんなマズいものを2ℓも飲んだのだから。いまごろトイレで吐いているのだろう。その証拠に、戻って来たとき酸っぱい臭いがした。
胃液の臭いだろう。
ちなみに、俺は戻って来るまで居るつもりはなかった。先輩に捕獲されていたのだ。
畜生!三原の奴、全部俺が悪いといって逃げたのだ。
とりあえずここまでは、文化祭でたまに見かける光景だった。
二週間経過した。
文化祭は過去の話になっていた。
おかしい?!
俺が作った激マズジュース、幾人かの女子が目立たない用に、隠し持っているのだ。
なんで?
ありえないだろ!!
だれがあんなマズいものを好き好んで飲むというのだ。
レシピは覚えている。複数の野菜ジュースとスポーツドリンクに、スパイスで飲みにくくしたのだ。
冷静になって、可能性について考えてみよう。
冗談で『豊乳』などと書いたが、牛乳や豆乳のほうが効果はあるはずだ。そのどちらも材料に使用していない。
他には・・・あれほどマズいと眠気ざましになるだろうか?
俺だったら濃いコーヒーのほうが手間もかからないし、飲んだ後に気分が悪くなるから、勉強どころではなくなると思うのだが。
しかし、複数の女子が隠し持っているのだ、何か理由があるはず。
聞くは一時の恥だ、クラスの女子に聞いてみた。
虫を見るような眼をされた。
教えてくれなかった。
しかし、あれを作り出したのは自分なのだ、責任があると思った。
悪戯の件は土下座して謝って、どんな理由なのか聞き出そうと、沼津さんに・・・
「ほら、あの時酸っぱい臭いが・・・」
ごす!
拳がミゾオチに入り、背中が壁に貼り付く。
「忘れなさい!」
苦しくて声もでない。
「忘れなさい!」
さらに拳に力がはいる。
「忘れなさい!」
命がけで声をふり絞る。
「忘れましたっ!なんのことだかワカリマセン!」
助かった。ああ、苦しかった。
忘れようと思った。
吐いたのがそこまで恥ずかしかったのだろうか?
しかし、クラスメートどころか、上級生や街中でさえ見かけるのだ。
不思議な事に、持っているのは女子または女性で『みどり』と、呼んでいることまでわかった。
わかったのは、そこまでだった。
こうなったらと、自分で飲んでみることにした。
まず1ℓ、マズい・・・ひたすらマズい。
もう1ℓ、吐き気をこらえて・・・ううっ辛すぎる。
成果はなかった。せいぜい腹が緩くなったぐらいだ。
わからない、さっぱりわからない。
男と女では、そこまで味覚に違いがあるのだろうか?
そのうえ、誰かに尋ねようとすると、背後に視線を感じるのだ。
なにもわからず、時間だけが過ぎ。
いまだに『みどり』は、飲み頃サイズのペットボトルで・・・