紹介
集合が掛かり、ミリアが立ち去った後、俺とケートもグループの集合場所である森の入り口に向かった。
今回はエステの森で異常発生した瘴気の調査がメインとなる。
瘴気は魔王の遺物とも呪いとも言われており、それを身体に取り込んでしまうと自我を失い、抑えきれないほどの破壊衝動に突き動かされる事となる。
瘴気は主に呼吸や傷口から体内に入る。瘴気の侵入を防ぐ方法は幾つかあるが、魔導師にとってもっとも手軽なのが防御壁で自分の体の周りを囲む事だ。これは初歩的な魔法で、大抵最初に習うことになっている。
もし瘴気が体内に入ってしまった場合は、早めに浄化することをお勧めする。早い段階なら後遺症無く回復できるが、瘴気が全身を蝕んでしまうと、例え浄化できても、命は助からない。そして、浄化に一番効果的且つポピュラーなのが浄化魔術だ。
今回のこの依頼、運が悪ければあの世行きだが、学院でこういう依頼は珍しい事じゃない。そういうことを普通に頼めるくらい、テューア学院の生徒はレベルが高い。
「何で瘴気がいきなり異常発生してんだ?」
不思議そうに、ケートが首を捻る。
「それを調べるのが俺らの仕事だろ」
指定された場所に辿り着き、周りを見渡せば、ほとんどのメンバーが揃っていた。
Sクラスの生徒が五人にZクラスの生徒が五人で合わせて十人。
Zクラスは俺、ケート、編入生、双子のソニアとソフィ。
Sクラスはユイ以外はあまり知らないが、ケートが言うには、ユイと一緒にいる子がシュア、真面目そうな男がカイン、編入生と一緒にいるのがアニーリアとミーシャ。気が強そうなのがアニーリアで、グラマーな体つきをしているのがミーシャらしい。
「レイっ」
俺に気付き、ユイが嬉しそうに駆け寄って来る。
「わーわー、『氷姫』が笑ったっーーーーーって、もしかしてレイ知り合い!?」
隣でケートが興奮気味に悶え、ハッと気付いたようにこちらを振り返った。
「ん?ああ、そういえば言ってなかったな」
ユイが抱きついてきたのを受け止め、紹介する。
「妹だ」
「………え?」
「だから、この前に言ってた妹だ」
「ーーーっっっ、えぇええええええぇぇぇ!!?」
呆けたように聞き返すケートに繰り返し伝えれば、一拍置いてから、絶叫された。
「うっせ」
耳がキーンとなって、イラついて反射的に足払いをかける。
「うおっ」
避けれずまともに喰らって、ケートは見事な弧を描いて引っ繰り返った。
どうやら頭を打ったらしく、そのまま頭を抱えてゴロゴロ転がりだした。
「あそこで変な事やってるバカがクラスメートのケートだ」
「ふぅん」
ユイにもケートを紹介すれば、冷ややかな視線でケートを一瞥した後、ユイは興味なさそうに視線を俺に戻した。
「ちょっ、変な紹介すんなよ。誰のせいだと思ってんだ!」
聞いていたケートは慌てて立ち上がり、ジト目で俺を睨む。
「俺、レイの親友のケートって言うんだ、よろしくなユイちゃん」
気を取り直して自己紹介するも、ユイは無反応。
しょぼーん、と言う効果音が聞こえてきそうなくらい、ケートはがっくりと項垂れた。
だがすぐに顔を上げ、俺とユイの顔をしげしげと交互に見比べる。
「こうしてみると、すんげー似てるよな。何で俺今まで気付かなかったんだろ………でもさー、何で今まで教えてくれなかったんだよ」
「機会がなかったからな」
「それはそうだけどーーー」
「おーい、集まれー」
更に言い募ろうとしたケートの言葉は、渋い声の持ち主によって遮られた。
視線を向けると、先ほどまでいなかった二人組みがいた。俺らのグループを引率する魔導師協会の人だ。