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脇役謳歌中  作者: 百佳
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ブラコンな妹




 寮に戻り与えられた部屋のドアを開けると、一人部屋であるにも関わらず、先客がいた。

 俺が帰ってきたことに気付いていないらしく、彼女はシンプルな木製の椅子に座ったまま、窓枠に頬杖を突いてぼんやりと外を眺めている。

 静かにドアを閉め、彼女の横顔が見えるベッドに腰を掛けた。質素な雰囲気の部屋に相応しい簡易な作りであるベッドは、俺が腰掛けたことによって少し軋み音を立てたが、それでも彼女は気付かない。


 ---珍しい。


 優秀なSクラスに所属し、いつもは人の気配に敏感に反応するのに、こんな近づいても気付かないなんて。

 何か考え事でもしているのかもしれない。

 それなら声を掛けて邪魔するのも悪い気がして、かと言って他にやることもなく、彼女を眺めている事にした。

 腰辺りまで伸ばしたストレートな青みがかった銀色の髪に、桔梗の花のような青紫色の瞳。俺の瞳も同じ色だが、やや長めの髪は赤みがかった金色。

 顔立ちは男女の差こそあるものの、一つ一つのパーツを見比べれば似通っている事が分かる。子供の頃はそれこそそっくりで、髪の色が同じなら他人には見分けられなかったに違いない。

 けれど、彼女の所属するSクラスと俺の所属するZクラスは離れすぎているため、学院での接点はない。そのせいか、俺が彼女と繋がりがあることは一部の先生以外あまり知られていない。意図的に隠してるわけでもないのに。

 俺らを知る人たちが言うには、二人並んでいれば血の繋がりがあることは一目瞭然らしい。

 まぁ、それもそうだろう。何しろたった一人の妹だからな。




「……レイ」


 ポツリと、彼女の口から俺の名が零れ落ちた。

 愛しげで柔らかな口調に、思わず微笑した。昼に見たあの冷ややかな態度との差が激しすぎる。


「なんだ、ユイ?」


 笑いを含んだ声で返事すれば、華奢な肩がビクリと震えた。パッと勢いよくこちらを振り向き、俺の姿を認めた瞬間、驚いたように目を丸くする。


「レ、レイ?いつの間に?」


 ---ん?


 動揺を露わにするユイに、首を傾げる。

 俺に気付いたから声を掛けたんじゃなかったのか?


「今呼ばなかった?」

「え?」


 俺の質問に対し、戸惑うようにして同じ方向に首を傾げるユイに、納得した。

 そうか、無意識だったのか。それなら俺がいたことに驚いたのも分かる。

 とすると、俺に関する考え事だったってことか。

 何を考えていたのか気にならないと言えば嘘になるが、わざわざ聞くような事もしない。


「外では思考に没頭するなよ」


 危ないからな。


 からかうように言えば、先ほどのことだと気付いたユイはムッと口を尖らせた。


「レイ以外だったらすぐ気付いたもん」

「そうか?」

「そうよ」


 力強い口調で断言し、自慢するように胸を張る。


「レイだからこそ気付かなかったんだよ。だって、普段からレイの気配に馴染み過ぎてるから」

「ふぅん、なら、少し距離を置こうか」


 冗談で言った台詞に、ユイは胸を張ったままの姿勢でビシッと音を立てて固まる。


 ・・・。


 たっぷり3拍ほどの間を置いてから、ユイは弾けるようにして椅子から立ち上がり、勢い良く飛びついてきた。


「うおっ」


 とっさの事に反応しきれず、勢いに押されて背中からベッドに倒れこむ。

 ギシッ

 二人分の体重を受け止めたベッドが悲鳴を上げ、さっきとは比べ物にならないほどの大きな音を立てた。


「嫌よ」


 俺の肩に顔を埋め、胸元辺りを力の限り握り締めながら、ユイはきっぱりとした口調で拒否する。 


「イ・ヤ」


 ーーーそんな握ったら皺になるだろ、今制服なんだけど。


 喉元まで出掛かった台詞を呑み込む。

 今それを言ったら確実に空気読まない男になってしまう。読めないのではなく、読まないのだ。ある意味読めない奴よりも最悪。


「冗談だ」


 顔の横にある頭を宥めるようにして撫でる。


「本当に?」

「ああ」


 伺うように覗き込んでくる瞳に目を合わせ、逸らさずに頷く。

 途端に、力を抜き、安心したようにホッと息を吐いて凭れ掛かってきた。

 背中に手を回され、ギュッと抱きつかれる。

 



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