親友
「元々俺はさ、テューア学院に来る予定はなかったんだよ」
「それは前々から疑問に思っていたわ、レイってヤル気なさそうなのに、何で実力主義のテューア学院に来たんだろって」
「ああ、分かる分かる、レイってヤル気皆無だもんな」
ーーーこいつら。
眉間に皺が寄るのが自分でも分かる。でも、考えるまでもなく実際そうなのだから、反駁する言葉が見つからない。
「チッ」
替わりに、舌打ちを一つ漏らした。
「まぁまぁ、それで、何でテューア学院に来たの?」
「俺も気になる」
興味津々にこちらを見る二人に、思わず溜め息を吐いた。
「妹がかなり強い魔力持ちだから、学院からスカウトが来てさ。でも俺が言うのもなんだけど、うちの妹ってブラコンなところがあるから、俺と一緒じゃなきゃ嫌だって言うんだ。学院としては是非とも妹が欲しいらしくて、当時魔力測定で学院の定める魔力値にぎりぎりだった俺の入学も許可したんだよ」
渋々ではあったけどな。
「まぁ、他にやりたい事もなかったし、妹も放っておけないし、なんだかんだでここの中等部に入る事にしたんだよ」
俺の入学は学院にとっても予想外だったため、人数の少ないZクラスに入れられることになった。妹は同じクラスじゃないからかなり渋ったが、お互いの部屋を繋げるの魔法陣を置く事で妥協した。
「へぇ、そうだったんだ」
「学院がわざわざスカウト……レイの妹って一体何者なの?」
驚きを浮かべるミリア。
まぁ、年々入学希望者が後を絶たないテューア学院が、自らスカウトをするのは非常に珍しいから。
「何者って、俺の妹だよ」
俺にとって、それ以外の何者でもない。
小さく笑って答えれば、ミリアが目を丸くした。
「レイも、なかなかのシスコンみたいだね」
「かもな」
否定せずに頭を縦に振れば、ミリアがますます目を見開いた。
分かってる。俺のキャラじゃないって言いたいんだろ?だけど、今の俺にとって最優先順位が妹なんだよ。
他の何かと比べるまでもなく、俺はアイツを取る。
「つーことは、俺ってレイの妹に感謝しなければならないってことか」
何の脈略もなく言い出したケートに、意味が分からずきょとんする。
「だってさ、レイの妹のおかげで、俺はこうしてレイという親友に出会えたんだからな」
屈託なく晴れ晴れとした笑顔で、ケートは言った。
「それもそうね」
ふんわりと笑って、ミリアが同意する。
「---っ」
不本意ながら、不覚にも、言葉に詰まってしまった。
「……バカじゃねぇの」
動揺を押し隠すようにして絞り出した言葉は、随分と素っ気無いものとなった。
「照れるなって、レイだって俺という親友に出会えて嬉しいだろ?」
大して気にした風もなくヘラヘラ笑いながら、ケートが肩に腕を回してきた。
「自意識過剰。ていうか、俺らって親友だっけ?」
惚けたように言うと、ケートは一瞬固まってから、俺の両肩を掴んだ。
「えっ、まさか親友だって思ってんのは俺だけじゃないよな?俺ら親友だよな?」
「さあ?」
「う、嘘だよな、嘘だと言ってくれ!!」
叫びながら俺をガクガク揺さぶるケート。
「ちょ、やめろ」
動揺中のケートの耳に、どうやら俺の制止の声は届かなかったらしく、揺れは続いた。
「忠告したからな」
声をワントーン下げて呟き、ケートが反応する前に、その脇腹目掛けて足を振り上げる。
「ぐおっ」
見事につま先がヒットした脇腹を押さえ、しゃがみ込んだケートが悶える。
「ったく、タダのお茶目な冗談だろ」
からかいを含んだ視線で目の前の緑の頭を見下ろす。
「レ~イ~~~」
同じく緑色の瞳に涙を浮かべながら、ケートが恨めしそうに見上げてきた。
「くすくすっ」
そんな俺らのやり取りに、ミリアは肩を震わせながら笑っている。
ーーーこういうのも悪くない。
窓から差し込む柔らかな日の光を浴びながら、ふと思った。
ゆったりと流れるこういう時間は、嫌いじゃない。
妹には及ばないとしても、その次の優先順位にこいつらを置いてもいいかもしれない。