王道編入生
シャイターン・ケトム王国王立テューア学院。
数々の優秀な魔導師を輩出し続ける名の知れた名門校である。
学院の定められた魔力の基準を満たしていなければ入学出来ない、実力が物を言うテューア学院では、家柄や権力の干渉を避けるため、姓を省いて名前だけ名乗る事を規則に定めている。
テューア学院に学年はなく、初等部、中等部、高等部から成っており、高等部の生徒だけが年一度ある卒業試験に参加する資格を有する。そして優秀な生徒から順にS、A、B、C、D、E、Z、とクラスが決められる。最も優秀な生徒はSクラスとなる。続いてA、B、C、D、Eのクラス。
ここで問題となるのがZクラスだ。このクラスには問題児、もしくは訳ありの生徒たちが所属している。魔力は強いが、制御出来なかったり、暴走したりする者。他人を頑なに拒む者。性格に難ありと判断された者。特殊な能力を持つ者。必要以上に攻撃的な者。などと、ある意味個性的なメンバーが集まっている。
学院は様々な依頼を引き受けており、依頼に応じて生徒を派遣している。それは授業の一環であり、実習となる。もちろん、働きに応じて報酬もある。
そんな学院に、国民の多くが憧れる近衛騎士団は勿論の事、軍、警備隊、魔導師協会からのスカウトが毎年あり、そんな彼らの眼鏡に適うべく、鍛錬に励む生徒も多い。
最近、一人の少年がこの学院の高等部に編入してきた。季節外れの編入生は珍しいこともあり、注目の的となっている。
特徴ないことが特徴とも言える編入生は、所謂平凡な容姿であったが、何故か次々と学院の人気者たちに気に入られた。
だが、人気者たちは慕われてこその人気者であったため、その人たちに憧れや恋心などの好意を抱いていた生徒は多くおり、そんな彼らにしてみれば、ぽっと出てきた見目の麗しくない編入生が気に入られるのを愉快に感じるわけがなく、裏で手を組んで編入生に制裁を加えようとしているらしい。
友人曰く、このパターンは所謂王道であり、編入生は大きな秘密や過去を抱える王道派主人公タイプだそうだ。
それを言うなら、俺は名も無き数多くいる脇役の中の一人といったところか。
まぁ、それが妥当であり、まさに俺の望むところだ。
主人公なんて面倒くさいモノは、ヤル気に溢れた者にこそ相応しい。でなければ、主人公の宿命とも言える、絶え間なく降りかかる数々の困難にどうやって立ち向かうって言うんだ。
脇役は脇役らしく隅っこで大人しくしているとしよう。間違っても主人公なんかには近づかない方が良い。巻き込まれるのが目に見えているからな。
「ああっ、まさにシチュエーション通りよ。まさか生で総受けものが見れるなんて……」
うっとりした表情を浮かべるクラスメート兼友人。名をミリアという。
うん、個人の趣味について他人がどうこう言うのもあれだから、何も言わないでおこう。
「BL最高っ!これからどうなるのか楽しみだわ……って、なにやってるのよレイ、こんなところでボーっとしてないで、今すぐ編入生争奪戦に参加してきなさい、私の萌えのために!!」
「………」
ビシッとこちらを指差すミリアに、俺は胡乱気な視線を向けた。
冗談だろうけど、突然何言い出すんだ、こいつは。
「現実に目を向けろ、編入生を取り囲んでいるのは到底男には見えない美少女だかりだよ。夢と現実を間違えるな」
何より、何で俺が行かなきゃならないんだよ。
「羨ましい限りだよな~」
机に突っ伏したまま、窓の外を言葉通り羨ましそうに見ていたケートが、大きな溜め息を漏らす。
窓の外に見える中庭では、人気あるのが疑いようもない数人の美少女がおり、彼女らに囲まれるかたちで噂の編入生がいた。
晴れの日の昼に、良く見かけるようになった風景だ。
「もうっ、二人とも修行が足りないわね、授業をちゃんと聞かないからよ。私くらいのレベルともなると、どんな美少女でも脳内で男に変換できるようになるわ」
「「………」」
どっから突っ込めばいいんだ?
顔を引き攣らせたケートと無言で突っ込み役を譲り合いーーーもとい、押し付け合い、何とか勝利を収めることができた。
「折角の美少女を男に脳内変換するなんて、んなもったいない事できるわけねーじゃん」
可愛ければ取り合えず口説く、がモットーであるケートらしい突っ込み所だ。
「ていうか、そんなこと授業で教わるわけないだろ」
思わず気になったところに突っ込んだ。これじゃあケートに押し付けた意味ないな。
「まぁ、男だろうと女だろうとどちらでも構わないわ、ハーレムであれば。ハーレムって王道の中でもかなりの割合を占めてるのよ」
愉しげに言うミリア。
どうやら、多くの物語を読んでいくうちに、現実にもそれを求めるようになったらしい。
しかも最近BLにハマってしまい、物語マニアに腐女子というスキルまで追加された。友人をやっている身としては、なんとも迷惑な話だ。
先ほども言ったように、別に個人の趣味に口を出すつもりはない。けれど、自分が迷惑を被る場合は別だ。頼むから俺で妄想するな。
否、妄想するだけならまだしも、何で一々その内容を俺に言うんだよ。何が悲しくって自分が男とイチャイチャする話なんざ聞かされなきゃならないんだ。一種の嫌がらせなんじゃないのか、これ。