危機的状況
俺が辿り着いたとき、編入生と魔獣の戦いは終盤に差し掛かっていた。
正気を保てたまま、変貌を遂げた魔王の右腕を駆使し、編入生は魔獣に押され気味ながらも健闘していた。
恐らくミリアの言う王道系主人公らしく、仲間を守るためにパワーアップしたのだろう。全くもって興味ないが。
「ケートっ」
木に凭れ掛かるようにして倒れているケートを発見したが、意識はないようだ。
---まさかっ。
最悪な結末が頭を過ぎり、慌ててそれを振り払う。
駆け寄って首筋の脈を探り、ホッと息を吐いた。どうやらただの気絶のようだ。
肋骨が何本か折れたようだが、命に別状はないと思う。
凭れ掛かる木を見上げれば、上のほうが少し凹んでいた。多分ケートはこの木に叩き付けられ、気を失ったのだろう。
「このバカが、心配させやがって」
ケートの頭を軽く小突き、周りを見回す。少し離れた所に、同じく気絶したギルさんとミーシャがいた。
「グッハッ……」
大きな唸り声に視線を向ければ、編入生の右腕の刃物のような爪が、魔獣の体を貫いた所だった。
魔獣は倒れ、それを追う形で編入生も倒れた。
近づいて確認すれば、編入生もただ気を失っているだけ。どうやら力を使い果たしたらしい。
ついでだから、一緒に運んでやろうか。
溜め息混じりに編入生の体を掴んだその時、大きな影が蠢いた。
咄嗟に飛び退いてその場を離れる。
「殺ス………殺シテヤル!!」
のっそりと身体を起こし、魔獣が低く呪うように唸る。
おいおい編入生、まだ気絶するには早かったようだぜ。
「全員……殺シテ喰ッテヤルッ」
取りあえず逃げようとしたが、その一言で立ち止まった。
全員殺して喰ってやる?その中にはユイやケートも含まれてるってことだよな。
手に持った編入生を離れた所に転がし、魔獣に向き合う。
「聞き捨てならねぇな。誰を殺すって?」
「全員……皆ダッ」
自然と眉間に皺が寄った。
「それなら、ここを通すわけには行かないな」
低く呟き、魔獣を睨み付ける。
「落雷!」
大した効果を期待してないが、それでも、雷に打たれながらも平然とされるのはイラつく。
「雷が駄目なら、風刃っ」
風の刃が魔獣に向かっていく。
「無駄ダ」
傲慢に宣言する魔獣に、ニヤリと笑う。
「やってみなきゃわかんないだろ」
軌道を調節した風の刃は、魔獣の胸辺り、編入生に貫けられた箇所を抉る。
「グフッ」
これは効いたのか、魔獣はダメージに体を揺らした。
「貴様ッ」
赤い瞳に怒りを宿した魔獣は、黒い炎を吐き出した。
「っと」
ゴドォオォォンッ
避ける事は出来たが、鼻につく異臭に、思わず振り向いた。
「ワオ」
黒い炎を喰らった木は、生きたまま腐っていった。
当たったらマズイ所の話じゃない。超ヤバイのだ。
飛んできたもう一発も避ける。だがーーー
「うそっ」
魔獣はその巨大な体からは想像も出来ないほどの軽やかさで跳躍した。
驚き、影に覆われてからハッと我に返ってその場から離れようとしたが、一歩遅かった。
「---ぐっ」
振り下ろされた前足をまともに喰らい、ブッ飛ばされて木にぶつかった。
あまりの衝撃に、一瞬息が詰まる。
再びこちらに向かって来る魔獣を視界に捕らえ、立ち上がろうとするが、全身がズキズキと痛み、力が入らない。
ーーーヤバイかも。
ユイの泣き顔が浮かんだ。
絶対泣くだろうなぁ。出来れば泣いて欲しくないけど、泣かせてしまうかもしれない。




