迷い
「腕ヲ……ヨコセ……」
しわがれた声で、魔獣は真っ直ぐ編入生を見ながら言った。
「ソレサエアレバ、我ハ……モット強クナレル」
魔王の腕を狙ってるのか。瘴気以上に魅力的なものを見つけたから、取るに足らない契約を破って男を殺したのか?
「腕ヲ……寄コセ!!」
編入生に襲い掛かる魔獣に、ギルさんが呪文を唱え、高度な攻撃魔法を放った。
しかし、動きをほんの僅か止めることが出来ても、まったくダメージを与えた様子がない。
次いで、皆それぞれ魔法を魔獣に向けて放つが、全く効果がない。
「場所が悪い、適う相手じゃないっ、全員一旦退却しろ。野宿した場所に集合だっ!」
叫ぶギルさんに、全員頷き、それぞれ別方向に向かって走り出した。
確かに、瘴気が力の源である魔獣相手に、瘴気が満ち溢れるこの場で攻撃しても、あまり効果はない。ここで引くのが最善だ。
暫く走った後、安全を確認して立ち止まった。
ドゴォオォォンッ
そう遠くないところから、地鳴りのような音が聞こえてくる。
ユイが走っていった方向でないのは確かだ。
あっちは編入生たちを連れたギルさんが向かった方向だから、魔獣はあくまで編入生の腕を狙っていったのだろう。
ギルさんとは違って、俺はお人よしでもなんでもないから、わざわざ助けに行く義理はない。
音が聞こえてきた方向に背を向け、ユイが向かった方向に足を進める。
大丈夫だとは分かっていても、ユイの安全を確かめずにはいられない。
「---あ」
ふと、思い出す。
そういえば、ケートも編入生たちと同じ方向に向かった気がする。
嫌な予感がして、思わず立ち止まった。
振り向き、迷う。このままユイの安全を確かめに行くか、それともケートを助けに行くか。
『レイの妹のおかげで、俺はこうしてレイという親友に出会えたんだからな』
気の抜けるような、晴れ晴れとした笑顔が浮かぶ。
しょうがない、そう言ってくれた事を、嬉しく思ってしまったのだから。
大きな溜め息を吐いてから、進む方向を見据えて走り出す。
死ぬなよ、ケート!




