朱雀
「まさかーーーっ」
隣にいたギルさんが俺の呟きに思い当たる事があるのか、ハッとしたように編入生をーーー正確にはその右腕を睨み付けた。
「まずいっ、取り押さえろ!!」
ギルさんの怒鳴り声に真っ先に反応したのはストームさんだった。
走って編入生に近づき、取り押さえようと手を伸ばす。
「危ないっ」
振り下ろされる腕にカインが声を上げ、寸でのところでストームさんが避けた。
ドォォオオォンッ
代わりにそれを喰らった木が、先ほどの狼と同じように黒い霧となって消えた。
「ユイ」
俺の呼びかけに、ユイは顔を顰めた。俺の意思を正確に読み取ったようだが、不満そうにしている。ユイが俺を心配しているのは分かる、だが誰かがやらないと事態はさらに悪化する。それも分かっているから、渋々ながらもユイは頷いた。
「我が呼びかけに応えよーーー朱雀!」
ユイの凛とした声に、周りの空間が一瞬歪み、全身が綺麗な朱色に彩られた、長い尾を持つ大きな鳥が姿を現した。
「なんだ?」
「見るのは初めて?ユイの使い魔よ」
ケートの疑問に、シュアが答える。同じクラスだから、見たことあるのだろう。
だが、厳密に言えば使い魔ではなく、式神だ。我が一族に代々受け継がれてきたもの。
「朱雀っ、浄化の炎を!」
ユイの命令に、朱雀が紅い炎の球を編入生に向けて放つ。
瘴気を浄化しながら辿り着いた炎の球に、編入生が右腕を上げて対抗する。
最初のうち、お互いの力は拮抗していたが、だんだんと炎の球は小さくなっていった。そのまま消えてしまいそうだが、問題ない。
この時既に編入生の後ろに回っていた俺は、足元を狙ってローキックを放っていた。
炎に気を取られていた編入生はまともに喰らい、いつかのケートみたく後ろに引っ繰り返った。そこを狙って、編入生の右腕の付け根を主に、押さえ付ける。
すかさず、ギルさんが編入生の頭を押さえ、口に何かを押し込んだ。カプセルのようなものに見えた。
「あの薬を?」
「いや、万が一のために用意した、浄化の魔法が籠められたものだ」
編入生は暫く俺とギルさんによって押し付けられたまま暴れていたが、そのうち動きを止めた。
「はぁっ、はぁはぁ」
荒い息を繰り返す編入生の顔を覗き込んだギルさんが、そっと身体を離した。続いて、俺も編入生を押さえ付けていた両手を外す。
編入生の瞳には正気の光が宿り、腕もいつの間にか元の人間らしい腕に戻っていた。
「説明、して貰えるか」
「……はい」
静かに問いかけるギルさんに、編入生も静かに頷いた。
「取りあえず、話はここを離れてからだな」
辺りはもうすっかり暗くなっていた。




