襲撃
瘴気の及ばない場所で休憩を取り、昼食にギルさんたちが持参した携帯食を食べた。
味は微妙だが、お嬢様育ちらしいアリーニア以外、誰も文句を言わなかった。
そもそも携帯食は持ち運びやすくて保存がきくことを求められた物で、味は二の次だから期待しない方が良い。
休憩時間の間に、編入生の顔色は正常且つ健康的な色に戻った。
そして、瘴気が発生した第二のポイントに向かったのだがーーー
「ここもか……」
重々しく呟くギルさん。
積み重なった動物や植物の残骸といい、瘴気に近づくにつれ顔色が悪くなる編入生といい、第一ポイントと状況は酷似していた。
調べてみた結果、これは疑いようのない、人為的によるものだと結論を出せざる終えなかった。
「一体誰が?」
「さあな」
硬い声で唸るストームさんに、ギルさんが肩を竦める。
「けど、悪意を持ってやってるってことは確実だな」
だろうな。悪意がなければ、こんな事出来る筈がない。
結局、瘴気の異常発生の原因は瘴気の素によるものだと判明したが、そうさせた元凶は全く分からないまま、瘴気から離れて野宿する場所を探すことにした。日もだいぶ傾いてきたし、日が沈む前に寝所を決めなければならない。
「少し離れた所に小川が流れている、今夜はその近くで休むぞ」
ギルさんがそう言って、瘴気が満ち溢れているこの場を離れようとした時、異変が起きた。
「ちっ、囲まれたか」
舌打ちと共に歩みを止めたギルさん。釣られて立ち止った全員の間に、さっと緊張が走る。
「まさか……」
「狼!?」
「瘴気に侵されてるわ」
現れた狼の群れに、皆動揺したのも一瞬の事、後ろでストームさんが「流石」と感心するほどの速さで立ち直り、戦闘体勢に入った。
木々が生い茂る森では、もはや日の光はあまり届かず、辺りは薄暗くなっている。
瘴気に侵された象徴とも言える赤い目を光らせた狼たちが、低く籠もった唸り声を上げ、襲い掛かってきた。
「落雷!」
高度な魔法ならともかく、初歩的な魔法で集中力を高めるための呪文を唱える初心者は、この場にはいない。
「風刃」
「水檻」
「氷槍」
俺たちが発動させた魔法が、飛び掛ってくる狼たちの進路を妨げ、攻撃した。
「グルルっ」
雷に打たれ、風の刃に切り刻まれ、水の檻に沈められ、氷の槍に貫かれても、狼たちは怯まず、なんの躊躇いもなく跳躍する。
「厄介だな」
隣のケートが忌々しげに吐き捨てる。
同感だ。
瘴気に侵され自我を失っているため、死を恐れずに立ち向かってくる。危機を判別する本能が働かないから、恐怖も感じない。
そんな相手は厄介以外の何者でもない。
「ロイっ!!」
狼たちの数も残り僅かとなった頃、誰かが悲鳴を上げた。
視線を向け、思わず瞠目する。
凭れ掛かるようにして木に体を預けている編入生が、襲い掛かる数匹の狼を右腕で薙ぎ払っている所だった。
払いのけられた狼たちの躯が、黒い霧のようなものとなって、さらさらと消えてゆく。
ーーーなっ?
「ぐっ、うぅ」
苦悶に満ちた表情を浮かべた編入生が、必死に右腕を押さえつけようとしているが、その右腕はまるで別の生物のように蠢き、変貌していく。
膨張していく右腕に耐え切れなくなった袖の布が破れ、刃のような長い爪を持つ黒くて巨大な腕が姿を現した。
「なんだ、あれは」
誰もが唖然とした。
その腕が放つあまりにも禍々しい雰囲気に、呑み込まれそうになる。
編入生の目は虚ろとなり、ぼんやりとしたまま右腕を振り上げる。
瘴気が渦を巻いて、その腕を取り囲んだ。
「瘴気を、吸い込んでいる……?」
そうとしか見えない。周りの瘴気がどんどん腕の周りに集まり始めていて、それらは腕に溶け込むようにして消えていく。残った狼たちの体からも瘴気が昇る。全身を瘴気によって侵されていた狼たちは瘴気を搾り取られ、そのまま絶命した。




