異変
「レイ」
「ああ」
十分程進んだ頃、周りの空気が澱み始めた。
ユイは前方を鋭く睨み付け、俺の服の裾を握り締める。
周りに視線を走らせ、斜め前にいる青空のような晴れやかな青色の短髪に同色の瞳を持つ編入生の姿が目に止まった。
ーーーなんだ?
随分顔色が悪いように見える。眉間に皺を寄せ、吐く息も少し荒い。
幾ら瘴気に近づいたといっても、薬を飲んだ上防御壁も張っているのだから、そこまで反応するのはおかしい。具合でも悪いのか。
「「ロイ、大丈夫?」」
「え?ああ、平気だよ」
左右にいる双子に声をかけられて、ハッとしたように顔を上げ、編入生は笑顔を作った。
だが言葉を裏切る顔色に、双子を含む周りが心配そうに見つめる。
「少し休むか?」
「いえ、大丈夫です」
ギルさんに聞かれ、編入生は慌てて首を横に振った。
「……そうか」
なにやら考えてから、ギルさんは頷いた。
見た目に反して優しいようだから、もしかしたらさっさと調査をして早めに休もうと考えたのかもしれない。もう瘴気の中心に近いから、ここで休んでも意味はあまりないし。
「これは……っ」
もっとも瘴気が濃くなったところで、いきなり視界が開けた。
ストームさんが呆然とした声を上げた。他のみんなも顔を強張らせている。
森の中であるにも関わらず、直径20メートル程の空き地が現れた。
それも只の空き地ではない。元は青々と生い茂っていたであろう木や植物は根っこから分離し無様に転がっていて、その上には沢山の動物の屍骸が積み重なっている。
「これが瘴気発生した原因か」
「だろうな」
ポツリと漏らした呟きは、厳しい表情をしたギルさんに拾われた。
「おそらく瘴気の素が成長したのだろ」
魔王の邪悪な力は世界中に飛び散り、多くは瘴気となったが、力が足りず瘴気になれなかったものもある。それらは瘴気の素と呼ばれている。
瘴気の素は精々人をイラつかせる程度の力しかなく、人体には無害だが、負のエネルギーや死の気配に反応し、それらを大量に取り込んでしまえば瘴気へと成長してしまう。
これだけの植物や動物が命を落とせば、死の気配はもちろん、発生した負のエネルギーも決して少なくはなかったのだろう。
しかし、この状況が自然にそうなったものとは到底思えない。
しゃがんで、近くにあった兔の死骸に手を伸ばす。
それは、まるで何か強い力で引っ張られたかのように、真っ二つになっていた。
「あの木には、鋭い切口があるわ」
近くの木の残骸に視線を向けたユイが呟く。
「こっちの木は力任せに押し倒されたようになってるぜ」
続いてケートが声を上げた。
皆で調べまわった結果、植物や動物には、鋭い刃物のような物で切られたものや、おそらく魔法によって力任せに潰したであろう物があることが分かった。
「そろそろ引き上げよう、幾ら防御壁を張ってあっても、瘴気の中で長時間いるべきではないからな」
チラリと編入生に視線を向け、ギルさんが引き上げの合図を出した。
編入生の顔色は悪くなる一方。真っ青を通り越して真っ白になっていた。ギルさんの言葉にホッとしたように息を吐き、左手で震える右腕を押さえている。
その仕草がやけに気になった。




