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眠れない夜に  作者: ミィ
第一章
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8 ボウモア

「ところで・・・」と佐々木はにこにこした顔を真理亜に向けた。


「今日はモルトを飲んだと言ってたな?」


「うん」


「真理亜は薬臭いのは大丈夫か?」


「ん?大丈夫だとおもうけど?」


「じゃ、今日はこれを試してみるか?」


そう言って、カウンターに戻った佐々木は棚の奥のほうからボトルを取り出した。


足つきの小さなグラスに少量注ぎ、別のグラスに水を入れて真理亜の前に置いた。


黙って真理亜を見ているので、真理亜はグラスを手に取って鼻に近づけてみる。


「何?これ」


「消毒薬の匂いがするだろ?」


「うん」


真理亜は顔をしかめながら、一口舐めてみた。


しかし匂いの予想に反して、口に含んでしまえばその臭さがあとをひく面白い酒だ。


余韻が消えそうになったくらいに、はっと顔を上げ佐々木を見た。


「どうだ?飲めるか?」


「うん、大丈夫そう。これ、味がわかればクセになりそうだね」


「お前、それ酒飲み発言だぞ」


佐々木は笑いながら自分のグラスにも同じウイスキーを注ぎ、カウンターから出て再び真理亜の隣に座った。


「ボウモアというモルトだ。名前だけでも覚えておけよ」


「うん、そうする」


「これを飲むと、男になったという気がするんだ」


佐々木はそう言って、グラスを目の高さに持ってから乾杯をするように少し持ち上げ、それからグイっと一口飲んだ。


真理亜はウイスキーが佐々木の喉仏が上下するのを見ていた。


不意に恥ずかしい気分になり、目を逸らせて桜を見た。


「凄い桜吹雪だよね~」


「そうだな、特に今年は天候が花見用で、タイミングよかったからな」


「桜って一斉に散るからいやだという人もいるけど、私は好きだな」


二人で並んで飲みながらしばらく桜を見ていたが、「そうだ、もっと良いものを見せてやるよ」


そういうと真理亜にボウモアのボトルを押し付け、佐々木は飲みかけの二人のグラスを持って立ち上がった。


店のスタッフに何かを言い置いて、「こっちだ」と佐々木は真理亜をエレベーターに誘導した。



10階建ての10階にエレベーターは到着した。


エレベーターから出ると、全面ガラス張りの部屋になっていた。


「ここは?」


「VIPルーム」


「へぇ~、さすが自社ビルだね」


「隣が俺のささやかなオフィスになってる」


佐々木は真理亜を窓辺に誘った。


佐々木の視線の先をたどると、隣接する公園の桜が見えた。


感嘆の声をあげてさらに窓に近寄る真理亜からボウモアのボトルを取り上げ、

グラスを真理亜に手渡した。


二人で飲みながら桜を見る。


しばらくして佐々木が真理亜の近くに立った。


手にはコントローラを持っている。


「今、空調を調節したからちょっと待ってろ。この時期、意外に肌寒いから」


「うん、ありがと。花冷えとか言うんだよね」


下を見ると店の外の桜は実は公園の桜だった。


ちょうど境界線の近くに桜の大木が数本枝を広げている。


さらに公園全体に点在するライトアップされた桜がこの窓からはよく見えた。


真理亜が感心して桜を目で追っていると、ふと背中に暖かな空気を感じて振り返ろうとした。


「そのままで・・・」


佐々木が真理亜の背後すぐにやってきていた。


やがて佐々木の胸が真理亜の背中に少し触れ、それに気を取られていると

今度は後ろから佐々木が真理亜の手に自分の手を重ねた。


後ろからすっぽりと包まれていることになる。


佐々木は真理亜の手をとって、全面ガラスを横断するようにとりつけられたステンレスの手すりに乗せる。


持っていたグラスは佐々木が取り上げて床に置いた。


真理亜の手のすぐ横に佐々木も自分の手を置置く。


「桜を見ててご覧。手は動かさないでいて」


佐々木の声が耳のすぐ後ろで聞こえて、肩に佐々木の顎がそっと触れた。


真理亜は声をだせなかった。


「一番近くにある桜はうちの店から見えてる桜だ。あのあたりを見ててご覧。

よく見えるようにちょっと照明を落とすよ」


そう佐々木が言うと、部屋の明かりが徐々に暗くなった。


真っ暗にするわけではなく、家具などはかろうじて見える明るさだ。


「ほら、もうすぐだ」


佐々木がそう言い終わると、公園のライトアップが一斉に消えた。


「あ・・・」


真理亜が声をあげると、佐々木が真下の桜を指差す。


1階の店から公園側の桜を強い光が照らしていた。


そこから外は暗闇が広がるので、その一角だけがピンク色に輝いている。


桜の木の根元は散った花びらでピンク色の絨毯になっていた。


その時、突風が吹いたらしい。


ピンク色の絨毯がまるで海のように動いた。


「桜の羽・・・」


真理亜がそう呟くと、「毎年見られるわけじゃない」そう佐々木が囁き返した。



しばらくそのまま桜を見ていたが、段々背中が気になって真理亜は身体動かそうとした。


佐々木が背後から抱えているので真理亜の身体はびくとも動かない。


「真理亜・・・」


佐々木は真理亜の耳にそう囁いた。


真理亜はびくんと震えてしまった。


「今夜は何も考えるな」


真理亜は承諾できないというように首をふるふると横に振った。


「駄目だ。見てろ」


真理亜が桜を見ようとすると、ガラス窓に二人の姿がうっすらと映っている。


佐々木が見てみろと言ったのは、桜のことなのか二人の姿なのかわからなくなった。


よく目を凝らしてみると、佐々木はガラスに映った真理亜を見ていた。


ガラスの中で真理亜と佐々木の目があった。


ゆっくりと佐々木が真理亜の首を唇を這わせる。


真理亜はぞくりとするのを止められなかった。



佐々木は真理亜の手を撫でて「掴まってろ」と言い、真理亜はできるかぎりその声に従ったが、

彼の手が真理亜の感じる部分を探し当てたときには立ってられなくなった。


そんな真理亜をくるりと反転させ、手すりに真理亜のヒップを押し付けて佐々木はぴったりと真理亜に密着した。


真理亜の顎に手をかけて上を向かせたあと、佐々木はゆっくりとその唇と塞いだ。


キスはゆっくりと長く続いた。


その間に真理亜のヒップはステンレスの冷たい手すりに乗せられ不安定に揺れたので、

真理亜は佐々木にしがみつくしかなかった。


真理亜が佐々木の首に両手を回すと佐々木は満足したような顔をした。


「キスが上手になったわね」


少し唇が離れた隙に真理亜がそういうと、「お互いにな」と言って佐々木はにやりとした。


もう一度唇が触れ合うと、今後は遠慮なく佐々木の舌が動く。


真理亜は今度はそれに応えようと佐々木の舌に自分の舌を絡ませた。


再び佐々木の手が動き出し、しばらくの後に真理亜は高みに押し上げられた。



荒い呼吸が収まると、佐々木は真理亜を手すりから降ろし、床からウイスキーグラスを手にとって真理亜に渡す。


佐々木がそのグラスを見るので、真理亜は一口、薬のにおいのするウイスキーを飲んだ。


空いた手をとって、「歩けるか?」と佐々木は聞いた。


「なんとか・・・」


真理亜がそう答えると、「こっちだ」と言い、手を引っ張って隣の部屋に案内した。



部屋には真ん中にダブルベッドがあり、壁にはドアがついているのでクローゼットなのだろう。


「俺の部屋だ。帰れないときはここに泊まるんだ」


真理亜は何も言わずに佐々木を見た。


「もう一口飲んでおけ。今夜は長い夜になる」


真理亜はゆっくりとグラスを見てからもう一口ウイスキーを飲んだ。


佐々木はそのグラスを取り上げると、真理亜の目を見ながら残りのボウモアを飲み干した。


部屋の電気は点けずに、隣の部屋からの明かりでお互いの顔はちゃんと見ることができた。



佐々木は真理亜の足元に跪き、真理亜の靴を脱がす。


次にスカートの中に手を入れると、ストッキングと下着を一緒に掴んで一気に下ろした。


真理亜は呻めき声を上げた。


「真理亜、下着が凄いことになってる」


「いやっ・・・」暗闇のなかで自分の顔が一気にほてるのがわかった。


佐々木はもう一度かがんで、ストッキングと下着を丁寧に真理亜の足首から取り去った。


それから上着を脱がされ、ブラウスのボタンを外され、丁寧に裸にされていく。


真理亜は佐々木の上着に手をかけようとしたが、佐々木は「駄目だ」と言って真理亜を立たせたままもう一度高みに押し上げた。



窓の外がようやく白んできたころ、佐々木は真理亜の中にはいる準備をした。


真理亜は意識が朦朧としていたが、ようやくと言う思いで安堵のため息がでそうだった。


佐々木のほうに重い手を伸ばそうとした。


「亮輔だ」


真理亜がゆっくり佐々木に焦点をあわると、「俺の名前忘れてないよな?」と佐々木がクスリと笑う。


「今度イク時は、亮輔と言えよ。言わないとイカせてやらない」


真理亜は佐々木の目を見て頷いた。


「イクと言わなくていいからな、亮輔とだけ叫べ」


そういい終わらないうちに一気に真理亜を貫いた。




真理亜は乱れたシーツの間で目を覚ました。


ここはどこだと思っていると、コーヒーのよい匂いが漂ってきた。


佐々木が真理亜の鼻先にコーヒーマグを近づけている。


「おはよう」


「おはよう・・・ございます」


佐々木はまだ寝惚けている真理亜を見て、くすっと笑った。


「自分で持てるか?」


「なんとか・・・」


真理亜は上体を起してシーツを身体に巻きつけ、ベットボートにもたれた。


両手でコーヒーマグを受け取る。


「おいし・・・」


「それはよかった」


佐々木はスエットパンツを穿いているだけで、上半身は裸だった。


そういえばこの部屋は寒くない。


「後で下に行って朝ごはんを食べよう」


「うん」


真理亜がコーヒーを飲み終わるまで佐々木は真理亜の隣で座っていた。


「謝らないからな」


「何に?」


「承諾もなしに抱いたこと」


「うん、感謝してる・・・かな」


佐々木は驚いた顔をした。


「私、久しぶりだったから・・・」


「うん、それはわかったよ」


「聞かれてたらできなかったと思う」


「そっか」



「でも、どうしてもお詫びがしたいというなら・・・」


真理亜は茶目っ気たっぷりに「美味しいトーストが食べたい」と言った。


「お腹ぺこぺこなんだもん」


佐々木は一瞬の後、笑い始めた。






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