ワイン (Ⅲ)
目が覚めたのはもうお昼近くの時間だった。
眠ったのは明け方なので仕方ないことではあるけれど、それでも真理亜はうしろめたい気分になった。
起き上がろうとしても佐々木の腕が真理亜の腰に巻きついていて動けない。
佐々木を起さないように時間をかけて腕を動かし、もう少しというところで佐々木がもぞもぞと動いた。
身を捩って佐々木の顔を見ると、くるんとカールした長い睫毛がぴくぴくと動いている。
佐々木のあどけない表情を見て、真理亜はくすっと笑ってしまった。
佐々木の目がゆっくりと半分ほど開いてまた閉じた。
「ん~~~」と眠そうな声を出しても目を開けない佐々木を見て、
そういえば昨日電話をもらったときも眠そうな声だったなと真理亜は思い出した。
朝起きが苦手なのかもしれない。そう思うと可愛く思えてきた。
「何、くすくす笑ってるんだ?」
佐々木は目を開けずに真理亜の腰を持って反転させ、真理亜の胸に顔を埋めた。
ただ両乳房の間に顔を押し当て、「1分だけ・・・・」と言って背中に回した手でぎゅっと抱きしめた。
真理亜は佐々木の柔らかい髪に指を入れ、漉くようにしながら「おはよう」と言った。
「おはよう」と佐々木はくぐもった声で答えてから身を起こし、「コーヒー欲しいな」と呟いた。
二人交代で洗面所を使い、夜の間に何度かシャワーを浴びてはいたがもう一度シャワーを使ってから露天風呂に浸かった。
真理亜が湯船で手足を伸ばしている間に、佐々木はフロントに電話をかけて食事の準備を頼んでいる。
それが済むと佐々木も露天風呂に身を沈めた。
「1時間ほどで準備できるか?」
「そんなにかからないわよ」
「せっかく来たのに、ここの庭も見せてないな」
「広いの?」
「あぁ、結構広いぞ。だから昼食は庭のほうでとろうか?」
「そんなことできるの?」
「あぁ、今頼んでおいたよ」
「わぁ、楽しみだなぁ」
真理亜が先に出ると言うと湯のなかで佐々木が真理亜の手をとって湯から指先を出し、
自分の口に近づけた。
指先に柔らかい唇が触れ、小さな音を立てて離れた。
真理亜の顔がみるみるうちに赤らんでいく。
それを佐々木は満足そうに見て、「1時間だ!ほら、先に出ろ」と言って促した。
部屋に戻った真理亜は室内のバスルームで身支度をした。
洗った髪は半分ほど乾かしておいて簡単な化粧にとりかかる。
服を着てから、寝室を少し片付ける。
シーツを見られる程度に整え、ティッシュはトイレに流し、
使用済みのゴムはベッドサイドのゴミ箱に入っているものを、
トイレの衛生バッグに全部入れて容器に捨てた。
真理亜ができることの背一杯のことだ。
あとでお掃除する人に見られると思うと恥ずかしかったが、仕方がない。
手を洗って、髪を完全に乾かすと準備はできた。
あとは昨日の買い物袋をまとめるだけである。
佐々木の淹れたコーヒーを飲みながら、二人で荷物を一階のダイニングテーブルにまとめて置いた。
ハンドバックだけを持って部屋を出ると、佐々木が真理亜の手を取り、
真理亜の歩調に合わせて見事な日本庭園を横切っていく。
母屋のすぐ裏手に蔵が見えた。
蔵の入り口で女将が待っていた。




