土曜日(Ⅵ)
日本建築の玄関先に車を止めると、佐々木は車の鍵を迎えに出てきた人に預けて真理亜を促し中に入った。
女将の歓迎を受けている間に、二人の荷物は車から降ろされそのまま真理亜たちのあとに続いて部屋に運ばれる。
卒のない女将の対応も感心するが、佐々木の遅くからの到着や食事を外で済ませてきたことへの謝罪やねぎらいを真理亜は感心して聞いていた。
どこから見ても立派な社会人である。
卒業してからそれだけの時が経ったのだと改めて思った。
真理亜たちが通された離れの部屋はメゾネットになっており、
一階のリビングに続く庭に露天風呂、上階の寝室を繫ぐ階段の途中にバスルームがあった。
そのバスルームにも外に階段が設えており、露天風呂に出入りできるような作りだ。
佐々木は寛ぐように真理亜に言って、自分はワインボトルを手に取ってラベルを読んでいる。
真理亜は一人でバスルームと寝室を探検した。
二人の荷物は寝室のクローゼット前に並べられていた。
そのなかから必要なものを取り出すと佐々木の居るリビングに戻り、
「なんだか長いようにも短いようにも思える一日だったわね」と声をかけた。
ワインを開封しようとしていた佐々木はちらっと真理亜を見て、
「まだ終わらないさ」と言った。
佐々木はワインを少しだけグラスに注いだ。
そのグラスをすっと目の高さに持ち上げ、色を見ている。
真理亜にも見るようにと手招きをし、ワイングラスを照明にかざして説明する。
それぞれ一口ずつ口に含んだ後で、真理亜に先に露天風呂を勧めた。
真理亜は一瞬躊躇したものの、佐々木はというとワインに夢中という様子で真理亜のことをあまり気にかけていないようだ。
今のうちに入ってしまうのがいいかもしれない。
そう思った真理亜は洗面所に入って化粧を落とし、着ている物を脱いだ。
バスローブがあったのでそれを身につけ、ドアを少し開けてそっとリビングの様子を伺った。
リビングには佐々木の姿は見えず、上階で音がしたので佐々木は寝室に居ると判断して、バスルームに入った。
シャンプーを手に取ると上質なよい香りがした。
丁寧に髪を洗ってボディーソープで身体を洗い終えると、バスローブを身に着けて外に出る扉を開けた。
4月下旬の気温はまだ寒い。
足の裏にひんやりとした石の感触を感じながら階段を降り、露天風呂の横でリビングを見たが佐々木の姿は見えなかった。
真理亜はほっとしてバスローブを脱ぐと、ゆっくりと露天風呂の湯船に身を沈めた。
暖かいお湯に包まれて、真理亜は思わず吐息が漏れる。
「湯加減はどうだ?」と後ろから声が聞こえた。
真理亜が驚いてビクッと身を震わせるとお湯が小さくパシャっと跳ねた。