土曜日(Ⅳ)
佐々木は2シーターのスポーツカーで来ていた。
シルバーグレイのボディに誰もが憧れるエンブレムをつけたボンネットに
足を交差させて寄りかかる姿は、多くの女性をうっとりさせるだけのオーラがあった。
その佐々木が真理亜の姿を見つけると、片手を挙げてから助手席のドアを開けてくれる。
普通の車よりやや低い座席に座ると、低いエンジン音と共に車が動き出した。
そういえば学生時代にはよく佐々木と出掛けてたことを思い出した。
「久しぶりだね」
真理亜は何の考えも無しにそう呟いていた。
「そうだな」
なのに佐々木も同じことを思ったのか、そういう答えが返ってきた。
「で、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
「内緒だって言ったろ?」
「教えてくれたっていいじゃん」
佐々木は笑っただけでどこに行くとは言わなかった。
真理亜もそれ以上は聞かずに、話題を変えた。
少しの渋滞に巻き込まれたが、それほど疲れずに東名高速のジャンクションを下りた。
その頃には真理亜には佐々木がどこに向っているのかわかった。
「あまり時間はとれないけど、明日また来ればいいからな」
有名なアウトレットショップの駐車場で、助手席のドアを開けた佐々木がそう言った。
「ありがとう。運転疲れたでしょ?」
「運転で疲れるということはない。あまりこの車に乗ってやらないから、今日はちょうどよかったんだ」
「それなら良いんだけど」
喉が渇いたという佐々木とモール内のカフェでコーヒーを飲みながら、アウトレットのパンフレットを手に取り検討する。
どのエリアから見るのか検討をつけてから二人はカフェを出た。
二人で並んで歩きながら、ウインドウを覗いていく。
興味があれば入ってあれこれと手に取り、身体に当ててみて「似合う」「似合わない」と言い合った。
佐々木はジーンズを何本か試着したものの、足が長いのでなかなかレングスの合うのが見つからない。
ようやくみつけた1本と、それにあうシャツやセーターを何点か買った。
真理亜は仕事用のスーツとそれに合うものを難点か選んだ。
興味深いことに二人とも同じブランドの靴が好きだというのが判明し、
その店ではデザインこそ違うものの、それぞれ気に入ったものがあったので二人とも購入した。
駐車場に戻る途中でも、真理亜はカジュアルな洋服を見つけ、
最後には店の外のベンチに座った佐々木にたくさんの紙袋を預けて、ランジェリーショップにも立ち寄った。
部屋着も充実したラインナップの店でいくつか選ぶと、スーツの店で払ったより高額だったので
真理亜は思わず苦笑してしまった。
二人は手に持てないくらいたくさんの紙袋を抱えて車に戻った。
考えれば小さな車だ。トランクルームも狭い。
「入るかしら・・・」思わずつぶやく真理亜に、
「まとめればいいよ。後ろの座席もあるし」と、
座るスペースのない飾りだけの後部座席に視線を動かしてから
佐々木は買ったものを1つの紙袋に押し込んでいる。
真理亜も真似して袋をまとめてみた。
「入るものね」と最後の袋を佐々木に渡しながら言うと、
「あぁ、俺、入れるのは得意だから心配するな」と意味深に真理亜に返す。
はっとして佐々木を見るといたずらっぽく笑っている。
真理亜の顔が赤らんでいくのを佐々木が笑って見ていた。
「お前、ほんと面白いな」
恥ずかしさでぷいっと横を向いた真理亜に、「お腹空いただろ?」と何事もないように佐々木が聞いた。
そういえばすごく空腹を感じた。
真理亜が頷くと、佐々木は助手席を開けて真理亜を促した。