土曜日(Ⅲ)
とりあえず今日の分があれば、あとはネットで見てからにしようと思い、
真理亜はブラとショーツのお揃いのセットと、少し大人っぽい小さな下着を買った。
ランジェリーショップを出てなんとなく他のショーウィンドウも見ながらぶらぶらと歩いていると、真理亜の携帯が鳴った。
「おはよう」
佐々木からだった。
「あ、おはようございます」
「今、起きた・・・・」
佐々木の声は少しかすれている。
「何時ごろ寝たの?」
「えっと、5時頃かな」
「それなら今頃おはようと言うのは納得できるわね」
「今何してた?」
真理亜の言葉は無視して、佐々木はそう聞いてきた。
「駅ビルにいます」
「少し騒々しいと思ったんだ」
「今から帰るところ」
「買い物?」
「うん、まぁそんなところ」
「そっか」
佐々木はちょっと言葉を切って、
「今夜って言ってたけど、夕方から時間とれないかな?」
「あ、いいですよ?」
「飯、食いに行こう」
「あ・・・」
「都合悪い?」
「いえ、お仕事は大丈夫かなと思って」
「今夜は俺が居なくても大丈夫そうなんだよ」
「はい、じゃ、何時ごろですか?」
「そうだな、夕飯はいつも何時くらい?」
真理亜が答えないでいると、
「ま、いいや。ちょっと遠出するけどいいか?」
と佐々木が言った。
「はい・・・どこに?」
「それは着いてからのお楽しみ!」
「ドレスコードは?」
「ん~、普通でいいよ」
「普通って・・・」
「歩きやすい服装がいいな。ちょうど駅ビルでのんびりウインドーショッピングするような」
そういうと佐々木はクスっと笑った。
「急な変更で悪いが、4時半に迎えに行く」
「ええっ?」
真理亜は思わず時計を見た。
「あと1時間少々じゃないですか」
「あぁ、今からシャワーを浴びるからそのくらいの余裕は欲しい」
「じゃ、すぐに戻らないと・・・」
真理亜が焦ってそういうと、更に佐々木はクスクス笑いながら「じゃ、4時半にな」と言って電話を切った。
大急ぎで駅前からタクシーに乗り、部屋に戻った真理亜は出かける準備をした。
佐々木はシャワーを浴びると言っていたが、真理亜のほうにはそんな余裕はなかった。
なんとかお化粧だけはやり直し、買ったばかりのブラとショーツを身につけ、歩き安いローパンプスにあう服を着る。
小さな化粧ポーチとやはり先ほど買った勝負下着、それに薄い素材のロング丈の部屋着をブランドもののトートバッグに放りこんで仕度は完了した。
女性の下着やインナーはこういうとき良くできてると思う。
軽くて、折りたためば手の平に隠れてしまう嵩だ。
トートバッグも膨らみもせず、気軽に街歩きしてますという見栄えに真理亜は満足した。
4時半ちょうどに佐々木からメッセージが届いた。
『到着した。外に居る』
真理亜は玄関で部屋をぐるりと見渡してからドアの鍵をかけた。
外を見ると、車にもたれている佐々木が見えた。
このボロアパートには恥ずかしくなるくらい不釣合いな男だ。
真理亜は知らず知らず微笑みを浮かべて、アパートの階段を下りた。