11 土曜日(Ⅰ)
タクシーに乗りこむときに田所にお礼を言いながら頭を下げたので、
座ってからは真理亜は振り向かないようにしていた。
店で飲んでいるときもそうだが、田所の視線が強すぎて緊張してしまう。
この前の夜はタクシーが発車するまでにきびすを返してAngel Eyesに戻ってしまった。
でも、今夜は見てるはずだ。頭の後ろがチリチリと痛んだ。
カウンターで隣に座ると、田所のスーツの腕のあたりからピリピリとしたオーラが
真理亜の上着を刺激しているような感じになってしまう。
錯覚だとわかっていても真理亜を落ち着かない気分にさせるには充分だった。
視線だけではなく存在そのものがとてつもなく大きく、しかも質感のあるものだ。
先ほどのテーブルでは真隣ではなかったのでピリピリ感はなかったが、
顔をまともに合わせる状況になってしまって、真理亜は少し困った。
会話がないのは苦ではない。
むしろ質問されている間、失礼がないように顔を上げないといけないことのほうが真理亜には辛かったのだ。
田所に今夜は雰囲気が違うなと指摘され、先週久しぶりに男性と身体を合わせたことが出てしまっているのかと一瞬焦りもした。
ポーカーフェイスを装ったものの、緊張する田所の前では上手くできているのか自信はない。
田所をいったいどのグループに入れるべきなのか考えてみる。
真理亜は誰もをグループ分けしていた。
経理部の部長はにっこり微笑んで丁寧に接するべきグループ。
課長は優柔不断な人のグループ。
誰々さんは単に顔見知りのグループ、などと無数にグループを作っていた。
その人を見かければすぐに頭の中でファイリングを引っ張り出して、適切な対応を心がける。
それが真理亜の対人関係対処法だ。
田所の強い視線が気なるからと言って、生理的に嫌なグループには入れられないと真理亜は思った。
タクシーがアパートの前に止まったので、とりあえず、会社の人+目上の人というグループに入れておく。
しかし思いなおして、会社の目上の人+チリチリする人というフォルダを新しく作ってそこに入れなおした。
寝る前にでももう一度考えてみようと思うことすると、少し気分がマシになった。




