否定
「なぁ。いい加減機嫌を直せよ、キコ。そりゃあお前をおいて帰った俺が悪かったけどさ、内容を説明せずに連れてきたお前もどうだったのかと思うぜ」
「……」
「男がホモ物の同人誌が大量に並んでるとこに突撃するのに必要な勇気パラメータを考えてくれよ。いや、俺だって最初は彼女にせがまれて仕方なくーみたいな態度で通そうとしたけど、キコは一人でどんどん先に行っちゃうしさ」
「……ひっく」
「……えっと、あの、」
「……えくっ」
「キコ。お前の書く話の決定的な弱点を思い付いた」
「!」
「聞きたいなら先ずこっちを向け。そしてその下手な嘘泣きをやめろ」
「ちっ。あくまで参考までに聞こうじゃないか」
「言うぞ? 切り口が浅いんだ。お前さ、多分全否定できない人間だろ? 日本人にありがちなタイプかもしれないけどさ。こないだの山田悠助にしろ西尾維新にしろ、嫌いだって言いながらどこかしらに価値を見つけ出そうとしてる。それが違うんだよ。読者はきれいにスパッと切って欲しいんだ。なにかを明確に見下したいんだよ。取り繕って価値を付加するのはそのあとからでいい。何かを嫌いになりきれてないから、お前の書く話には一定以上に共感できない。浅く感じる」
「……そうか。僕の書く話は浅いのか」
「言い方、不味かったかな。悪い。でもキコが小説に関してだけは真剣なのがわかってたから。言ったほうがいいだろうなと思って」
「最初に言っておくけど、意識はするが僕という人間はおそろしく学習能力が低い。すぐに反映されていなくても呆れないでくれよ」
「わかった。……なんか楽しそうだな」
「いや、僕はいい友達を持ったなと思ってさ」